6 初期値が局所的に有界変動でないエントロピー解

前節で構成した 1 単位分の解を用いて、 初期値が局所的に有界変動でないエントロピー解の例を構成する。

まず、保存則方程式 (1) のエントロピー解 $u(t,x)$ を、 $x$ 方向に平行移動したもの
$u(t,x-a)$, および $t,x$ 方向に同率に拡大縮小したもの $u(\mu t, \mu x)$ ($\mu>0$) も エントロピー解となることに注意する。

前節の 1 単位分のエントロピー解を $u_1(t,x)$ とする。 それを縮小して平行移動したもの

$\displaystyle v_2(t,x) = u_1\left(\frac{t}{\lambda},\frac{x-p}{\lambda}\right)
\hspace{1zw}(0<\lambda<1)
$
を作り、$\lambda$ を十分小さくとり $p$ を適当に選ぶことで、 $v_2$$S_6$ 部分が丁度 $u_1$$S_3$ 部分につながり、 かつ $v_2$$\sigma_1$ 部分と $u_1$$R_2$ 部分が干渉しない ようにする (図 5)。

図 5: $u_1$$v_2$ ($u_2$)
\begin{figure}\begin{center}
\setlength{\unitlength}{0.15mm}
\begin{picture}...
...7,-319)
\par % 文字
\put(355,-354){$v_2$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

そして、この $u_1$$S_3$ 部分の $v_2$ と重なる部分 ( $0<t<\lambda T_3$ の範囲) を $v_2$ で置き換えた エントロピー解を $u_2(t,x)$ とする。

さらに、$u_1(t,x)$$(t,x)$ 方向に $\lambda^2$ 倍し、 $p+\lambda p$ だけ平行移動したもの

$\displaystyle v_3(t,x)
= u_1\left(\frac{t}{\lambda^2},\frac{x-p-\lambda p}{\lambda^2}\right)
= v_2\left(\frac{t}{\lambda},\frac{x-p}{\lambda}\right)
$
を作ると、その $S_6$ 部分が $v_2(t,x)$$S_3$ 部分につながる。 そのつなげたものを $u_3(t,x)$ とする。

なお、この $u_3(t,x)$ は、$u_1$ に、 $u_2$$\lambda$ 倍と $p$ の平行移動

$\displaystyle u_2\left(\frac{t}{\lambda},\frac{x-p}{\lambda}\right)
$
を重ねたもの、と見ることもできる。

以下同様にして、

$\displaystyle v_{n}(t,x) = v_{n-1}\left(\frac{t}{\lambda},\frac{x-p}{\lambda}\right)
$
として、$u_{n-1}$$v_n$ をつなげたものを $u_n(t,x)$ とする。

そして $u_n(t,x)$ のほとんどいたるところの収束極限を $u_\infty(t,x)$ とする。

$\displaystyle u_\infty(t,x) =\lim_{n\rightarrow \infty}{u_n(t,x)}\hspace{1zw}(\mbox{a.e.})
$
$u_n(t,x)$ 同様、$u_\infty(t,x)$ が、その $t=0$ での値を初期値とする エントロピー解であることは、 $\vert u_n(t,x)\vert\leq \vert A\vert+\vert H\vert$ であることと、 ほとんどいたるところの収束極限であることから容易に示すことができる。

また、$v_1=u_1$ と見て、 $v_k(t,x)$$S_1$ の始点の $x$ 座標を $\delta^{-}_k$$R_2$ の始点の $x$ 座標を $p_k$$S_6$ の始点の $t$ 座標を $\bar{t}_k$ とすると、 $\delta^{-}_1 = -\delta$, $p_1=0$, $\bar{t}_1=T_3$ で、

$\displaystyle \delta^{-}_{k+1}=p+\lambda\delta^{-}_k,
\hspace{1zw}p_{k+1}=p+\lambda p_k,
\hspace{1zw}\bar{t}_{k+1}=\lambda\bar{t}_k
$
を満たし、よって、
$\displaystyle \delta^{-}_1<p_1<\delta^{-}_2<p_2<\delta^{-}_3<p_3<\cdots,
\hspac...
...arrow \infty}{p_k}=\frac{p}{1-\lambda},
\hspace{1zw}\bar{t}_k=\lambda^{k-1}T_3
$
となる。

$u_\infty$ の初期値 $u_\infty(0,x)$ は、 この $\delta^{-}_k$, $p_k$ で段差を持つ階段関数で、 $\delta^{-}_k<x<p_k$ では $A$, $p_k<x<\delta^{-}_{k+1}$ では $A+H$ と なっている。 よって、$u_\infty(0,x)$ $x=p/(1-\lambda)$ の近くで有界変動では なく、その変動は局所的に $\infty$ となる。

次に $t=t_0>0$ での $u_\infty(t_0,x)$ の全変動 $TVu_{\infty}(t_0,x)$ を 考えてみる。 $t_0\geq T_3$ ならば変動は $u_1$$S_6$ の段差だけになるので、 $TV u_\infty(t_0,x)=H$ である。

$0<t_0<T_3$ の場合は、 $\bar{t}_k=\lambda^{k-1}T_3\rightarrow 0$ ( $k\rightarrow\infty$) なので、 $t_0$ 以上の $\bar{t}_k$ は有限個で、 そのような最大の $k$$k=m$ とすると、 $k>m$ に対する $v_k(t,x)$ はすべて $0<t<t_0$ の範囲に含まれ $t=t_0$ とは交差しないので、 よって $u_\infty(t_0,x)=u_m(t_0,x)$ となり、 $TVu_\infty(t_0,x)=TVu_m(t_0,x)<\infty$ となる。

より詳しく評価すると、$u_m$$v_1$ から $v_{m-1}$ 部分の変動は、 $S_1$ 部分と $R_2$ 部分の変動に等しいので最大でそれぞれ $2H$$v_{m}$ 部分の変動は $S_3$ 部分の変動も追加されるので、最大で $3H$、 よって

$\displaystyle TV u_\infty(t_0,x) = TV u_m(t_0,x) \leq 3H + 2H(m-1)
$
となる。この $m$ は、 $\bar{t}_m\geq t_0> \bar{t}_{m+1}$ によって決まり、 よって $\lambda^{m-1}T_3\geq t_0>\lambda^{m}T_3$ より、
$\displaystyle m-1\leq\log_{\lambda}\left(\frac{t_0}{T_3}\right)<m
$
となる。よって、
$\displaystyle TV u_\infty(t_0,x) \leq 3H + 2H\log_{\lambda}\left(\frac{t_0}{T_3}\right)
$
と評価される。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-02-21