3.1 はじめに

本節では、[1] の 7.3 節 3. にある、front 同士の衝突点 $t=\tau$ における $V$, $Q$ の差分評価である (7.55), (7.56) (p137)、 および帰納法による (7.60) (p138) の評価について考える。

$\displaystyle \begin{array}{ll}
(7.55) & V(\tau +) - V(\tau -) = O(1)\vert\sig...
...= -\vert\sigma\sigma'\vert
+ O(1)\vert\sigma\sigma'\vert V(\tau-)
\end{array}$

[1] では、(7.55) は (7.33), (7.34) から得られる、 とだけ書いており、また (7.56) は (7.31)$\sim$(7.34) から 得られると書いて、その下に 10 行程の説明があるが、 特にこの (7.56) の方は簡単ではないと感じたので、 本節でその詳細な証明を与えておく。

なお、特に $i>j$ の場合の (7.56) の説明用に、 p137 に $\sigma'_i$$\sigma'_j$ の front が $t=\tau$ で 衝突して $\sigma_k$ ($k=1,2,\ldots$) の front が発生するような図が 書いてあり本節でもそのような状況を考えるが、少し記号を変える。 左からの $i$-特性族の front $\sigma'_i$ の方はそのままとするが、 右からの $j$-特性族の front は $\sigma''_j$ と書くことにして、 $i=j$ の場合も同じ記号のまま議論できるようにする。

生成する front は $\sigma_k$ ($k=1,2,\ldots$) とするが、 この添字の $k$ は「$k$-特性族」を意味はせず 単純に左から順番に番号を振ったもので、 accurate method の場合の膨張波を分解する前の Riemann 問題の解の波は $\bar{\sigma}_k$ ( $k=1,2,\ldots,n$) と書くことにする。 この場合、$\sigma_k$ は、この $\bar{\sigma}_1\sim\bar{\sigma}_n$ の うち、膨張波を分解 front に分離して作成した front の集まり (の速度を微小に変更したかもしれないもの) となる。 この場合、Lemma 7.2 (i),(ii) の評価は、$\sigma_k$ ではなく、 $\bar{\sigma}_k$ に対して成り立つものであることに注意する。

以下、$V$, $Q$ の評価を、順に衝突点での近似解の作り方に関する場合分けで 示すことにするが、そのそれぞれに以下のように名前をつけておくことにする。

なお、等式形の (7.55), (7.56) を示すことは難しく (成り立たないかもしれない)、 かつそれは必要はなく、実際に必要で示すべきは不等式形の

$\displaystyle \begin{array}{ll}
(7.55') & V(\tau +) - V(\tau -) \leq O(1)\vert...
...q -\vert\sigma\sigma'\vert
+ O(1)\vert\sigma\sigma'\vert V(\tau-)
\end{array}$

であることに注意する。 ここで、$A=O(1)B$ は、ある定数 $C$ に対し $-CB\leq A\leq CB$, すなわち $\vert A\vert\leq CB$ を意味し、つまり $A\geq -CB$ も必要であるが、 $A\leq O(1)B$$A\leq CB$ のみを意味するので、 (7.55), (7.56) を示すためには、正確には下からの評価も必要であるが、 実際には下からの評価は必要ないし、簡単に示すこともできない。 実際、[1] のこの部分に関する原論文である [2] にも 等式形の (7.55), (7.56) ではなく、不等式形の (7.55'), (7.56') の形で 書いてある。 本稿も、(7.55), (7.56) ではなく、(7.55'), (7.56') を示すことを考える。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03