4.6 接触不連続

4.5 節の最後の (4.35) より、 $k$-特性方向が真性非線形であれば $s_k'(0)>0$ なので、 少なくとも $\delta$ が 0 の近くであれば 曲線 $U=U_k(\delta)$ に沿って $s$ も変化することがわかるが、 $k$-特性方向が線形退化の場合には $s_k'(0)=0$ となりあまり変化がない。 これが実際に全く変化しないことをこの節で紹介する。

まず、$U=U_l$ を通り、ベクトル場 $r_k(U)$ に対する $\Omega $ 内の積分曲線 $U=V(\xi )$ を取る:

\begin{displaymath}
V'(\xi)=r_k(V(\xi)),\hspace{1zw}V'(0)=U_l
\end{displaymath}

$k$-特性方向が線形退化の場合は、 この積分曲線が $U=U_k(\delta)$ の作る曲線であることを示す。

\begin{displaymath}
\frac{d}{d \xi}\lambda_k(V(\xi))
=\nabla_U\lambda_k(V(\xi))V'(\xi)
=\nabla_U\lambda_k(V(\xi))r_k(\xi)
=0
\end{displaymath}

より、$\lambda_k$ はこの積分曲線に沿って定数、すなわち、
\begin{displaymath}
\lambda_k(V(\xi))\equiv \lambda_k(U_l)\end{displaymath} (4.85)

であることがわかり、また、(4.36) より、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{d}{d \xi}\{F(V(\xi))-\lambda_k(U_l)V(\xi)\}}
\\...
...a(U_l)r_k(V)
\\ &=&
\{\lambda_k(V)-\lambda_k(U_l)\}r_k(V)
=
0\end{eqnarray*}

となるので、 $F(V(\xi)-\lambda_k(U_l)V(\xi)$ も定数、すなわち
\begin{displaymath}
F(V(\xi))-\lambda_k(U_l)V(\xi)
=
F(U_l)-\lambda_k(U_l)U_l\end{displaymath} (4.86)

が成り立つ。 これは、$U_r=V(\xi)$, $s=\lambda_k(U_l)$ に対する ランキン-ユゴニオ条件を意味している。 この (4.37) と (4.27), (4.28) の 関係を見るために、(4.37) を 少し変形する。

\begin{displaymath}
F(V(\xi))-F(U_l)=G(V(\xi))(V(\xi)-U_l)
\end{displaymath}

なので、

\begin{displaymath}
G(V(\xi))(V(\xi)-U_l)=\lambda_k(U_l)(V(\xi)-U_l)
\end{displaymath}

となり、よって、ある $j$ に対し、

\begin{displaymath}
\lambda_k(U_l)=\mu_j(V(\xi)),
\hspace{1zw}V(\xi)-U_l\mathrel{/\!/}R_j(V(\xi))
\end{displaymath}

となることがわかる。 $\mu_j(V(\xi))$ は連続で $\lambda_k(U_l)$ は一定なので、 $\xi$ 毎に $j$ は変化したりはせず、$\xi=0$ では $\mu_j(V(\xi))=\mu_j(U_l)=\lambda_j(U_l)$ なので $j=k$ でなければならない。

よって、あるスカラー関数 $c(\xi)$ によって

\begin{displaymath}
V(\xi)-U_l=c(\xi)R_k(V(\xi))\end{displaymath} (4.87)

となることになる。$V(0)=U_l$ であるから $c(0)=0$ で、 (4.38) を $\xi$ で微分して $\xi=0$ とすれば、

\begin{eqnarray*}&&
V'(\xi)=c'(\xi)R_k(V(\xi))+c(\xi)R_k(V(\xi))'
\\ &&
V'(0)=c'(0)R_k(V(0))+c(0)R_k(V(\xi))'(0)
\\ &&
r_k(U_l)=c'(0)r_k(U_l)\end{eqnarray*}

となるので、$c'(0)=1$、よって $\delta=c(\xi)$$\xi=0$ の近くで 逆関数 $\xi=c^{-1}(\delta)$ を持つので、 (4.38) と (4.28) を比較すれば、

\begin{displaymath}
V(\xi)=U(c(\xi)),\hspace{1zw}U(\delta)=V(c^{-1}(\delta))
\end{displaymath}

となることがわかる。

結局、$k$-特性方向が線形退化の場合は、$U=U_k(\delta)$, $s=s_k(\delta)$ は、

\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
U_k'(\delta)\mathrel{/\!/}r_k(U(\d...
...a)=\lambda_k(U(\delta))\equiv\lambda_k(U_l)
\end{array}\right.\end{displaymath} (4.88)

を満たし、よって $s_k$$\delta$ に関して定数、 $U=U_k(\delta)$ は相空間上で $r_k(U)$ の積分曲線を動くことになる。

これによる不連続解を、$k$-接触不連続 ($k$-contact discontinuity) と呼ぶ。 不連続線の方向は、左右の $k$-特性曲線の方向 ( $\lambda_k(U_l)=\lambda_k(U_r)$) と一致する。

図 4.4: $k$-接触不連続解 (点線は $k$-特性曲線)

\includegraphics[height=0.2\textheight]{contact.eps}

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01