4 補題の証明

本節では、前節の「弧 BC $<$ BD $+$ CD」の証明を紹介する。 なお、偶然だが [4] に以下と途中まで ほぼ同じ証明が書かれているが、 [4] は最終的には「弧 BC $<$ BD」を証明している。

曲線の弧長は、折れ線近似の上限として定義されるので、 弧 BC の折れ線近似よりも、常に BD $+$ CD の方が長いことを示せばよい。 そのために、次のような補題を示すことにする。


補題 1

$\triangle $ABC は A $\rightarrow$ B $\rightarrow$ C の順に右曲り (時計回り) であるとし、 $\mathrm{A}=\mathrm{P}_0\rightarrow\mathrm{P}_1\rightarrow\cdots
\rightarrow\mathrm{P}_n=\mathrm{B}$$\triangle $ABC 内の凸な折れ線、 すなわちこの折れ線に交差はなく、各 $\mathrm{P}_k$ の角はすべて 右曲りで、$180^\circ$ ではないとする (図 2)。 このとき、この折れ線の長さは AC$+$BC 以下となる。


図 2: $\triangle $ABC と折れ線

\includegraphics[width=\textwidth]{fig-oresen.eps}
図 3: 帰納法

\includegraphics[width=\textwidth]{fig-kinou.eps}
まず $n\geq 3$ とする。 $\mathrm{P}_0\mathrm{P}_1$ を延長すると、辺 BC と交わるが、 それを D とする (図 3)。 三角不等式により $\mathrm{AD}+\mathrm{BD}\leq \mathrm{AC}+\mathrm{BC}$ であり、 仮定により $k\geq 1$ の点 $\mathrm{P}_k$ はすべて $\triangle $$\mathrm{P}_1$BD に 含まれている。

また、$n\geq 3$ より $\mathrm{P}_1\neq\mathrm{D}$ なので、 この補題が $\triangle $$\mathrm{P}_1$BD と $\mathrm{P}_1\sim\mathrm{P}_n$ の 折れ線に対して成り立てば、

\begin{displaymath}
\sum_{k=2}^n\mathrm{P}_{k-1}\mathrm{P}_k
\leq \mathrm{P}_1\mathrm{D} + \mathrm{DB}
\end{displaymath}

より、
\begin{displaymath}
\sum_{k=1}^n\mathrm{P}_{k-1}\mathrm{P}_k
\leq \mathrm{AD} + \mathrm{DB}
\leq \mathrm{AC} + \mathrm{CB}
\end{displaymath}

となって補題が示されることになる。 よって、折れ線の点の個数による帰納法により、 あとは $n=2$ のときに示せば良いことになる。

$\mathrm{P}_1$ が AC か BC 上にあるときは、三角不等式により明らか。 $\mathrm{P}_1$$\triangle $ABC の内部にあるときは、 前と同様に $\mathrm{P}_0\mathrm{P}_1$ の延長と BC の交点を D とすれば 三角不等式により

\begin{displaymath}
\mathrm{P}_0\mathrm{P}_1 + \mathrm{P}_1\mathrm{P}_2
< \mathrm{AD}+\mathrm{DB} < \mathrm{AC}+\mathrm{CB}
\end{displaymath}

となって証明される。

竹野茂治@新潟工科大学
2015年12月7日