5 計算例

本節では漸化式 (15) や、 前節の (21), (22)、すなわち
  $\displaystyle
T[y^{2m}] = \frac{y}{2m+1}\left(y^{2m}-\frac{1}{2^{2m}}\right),
\hspace{1zw}
T[y^{2m-1}] = \frac{1}{2m}\left(y^{2m}-\frac{1}{2^{2m}}\right)$ (23)
などを用いて、いくつかの $\phi_n(x)$ の計算を紹介する。 公式集や数式処理ソフトでも簡単に得られるかもしれないが、 ここでは少し地道な計算を示し、多項式としての形や $\phi_1$, $\phi_2$ の 因数を出した形、および [T1],[T2] の形がどうなるかを紹介する。

なお、$n$ が奇数か偶数かで計算のしやすさに違いがあることに注意する。 例えば $n$ が奇数の場合は、[T2'] より

$\displaystyle \phi_{n-1}(x) = \phi_2(x)G_m(\phi_1(x))\hspace{1zw}\left(m=\frac{n-1}{2}\right)
$

となるが、

$\displaystyle \phi_2(x) = \frac{2x+1}{3}\phi_1(x) = \frac{2}{3}\phi_1'(x)\phi_1(x)
$

なので、多項式 $H_m(X)$
  $\displaystyle
H_m(X) = \int_0^X YG_m(Y)dY$ (24)
とすれば、$\phi_{n-1}(x)$ の積分は置換積分により、

\begin{eqnarray*}\int_0^x\phi_{n-1}(t)dt
&=& \int_0^x \frac{2}{3}\phi_1(t)G_m(\...
...{3}\{H_m(\phi_1(x))-H_m(0)\}
\ =\ \frac{2}{3}H(\phi_1(x))
\\ &&\end{eqnarray*}

となり、よって
$\displaystyle \phi_n(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle n\left(\int_0^x\phi_{n-1}(t)dt+x\int_0^{-1}\phi_{n-1}(t)dt\right)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2n}{3}\{H_m(\phi_1(x))+xH_m(\phi_1(-1))\}
\ =\
\frac{2n}{3}\{H_m(\phi_1(x))+xH_m(0)\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2n}{3}H_m(\phi_1(x))$ (25)

となる。 つまり、$n$ が奇数の場合、$\phi_{n-1}(x)$ の [T2'] の形が得られていれば、 そこから $\phi_n$ の [T1'] の形を得るのは難しくはなく、 ほぼ (24) の計算だけで済むし、 また、上の計算からもわかるが、 直接 (15) を使って計算しても、 $n$ が奇数の場合は後ろの定積分の項は 0 となるため、

$\displaystyle \phi_n(x) = n\int_0^x\phi_{n-1}(t)dt
$

となって、計算量はだいぶ小さくなる。

一方、$n$ が偶数の場合は [T1'] の形から [T2'] を求めるのは それほど易しくはない。(23) を使えば 一応計算できるのであるが、 $y$ の多項式への変形や、 逆に $y$ の式から $\phi_1(x)$ の式への展開などが入り、 $n$ が奇数の場合よりも計算量が多くなる。 この場合はむしろ多項式として直接 (15) を使って計算し、 それを因数分解して [T2'] の形を作った方が、$n$ が大きい場合には 早いかもしれない。

それでは、順に $\phi_n(x)$ ($n\geq 1$) を計算する。 $\phi_0(x)=x$ なので、定数 $C$ に対して

$\displaystyle T[C] = \int_0^x Cdt + x\int_0^{-1}Cdt = Cx+x(-C) = 0
$

に注意すると、(23) を使えば

\begin{eqnarray*}T[\phi_0]
&=& T[x]
\ =\ T\left[x+\frac{1}{2}\right]
\ =\ ...
...frac{1}{2}\right)^2-\frac{1}{4}\right\}
\ =\ \frac{1}{2}(x^2+x) \end{eqnarray*}

となるが、これは直接 (19) から

$\displaystyle T[x]
= \int_0^x tdt + x\int_0^{-1} t dt
= \frac{x^2}{2}+\frac{x}{2}
$

とする方が早いだろう。いずれにせよ、結局、

$\displaystyle \phi_1(x) = T[\phi_0] = \frac{x}{2}(x+1)
$

となる。

$\phi_2(x)$ は、(23) を使えば、

\begin{eqnarray*}\phi_2(x)
&=&
2T[\phi_1(x)]
\ =\
T[x^2+x]
\ =\
T\left...
...ght)
\ = \
\frac{2x+1}{6}(x^2+x)
\ = \
\frac{x}{6}(x+1)(2x+1)\end{eqnarray*}

が得られるが、これは直接 (19) から計算すれば、

$\displaystyle \int_0^x\phi_1(t)dt
=
\int_0^x\left(\frac{t^2}{2}+\frac{t}{2}\right)dt
=
\frac{x^3}{6}+\frac{x^2}{4}
$

より、

\begin{eqnarray*}\phi_2(x)
&=&
\frac{x^3}{3}+\frac{x^2}{2} + x\left(\frac{(-1)...
...6}
\ = \
\frac{2x^3+3x^2+x}{6}
\\ &=&
\frac{x(x+1)(2x+1)}{6}\end{eqnarray*}

のようになる。

次は $\phi_3(x)$ であるが、(25) を使うと、 この場合は $G_1(X)=1$ なので、 $H_1(X) = X^2/2$ となり、よって

$\displaystyle \phi_3(x)
= \frac{2}{3}\cdot 3\cdot\frac{1}{2}\phi_1(x)^2
= \phi_1(x)^2
= \frac{x^2}{4}(x+1)^2
= \frac{x^4}{4}+\frac{x^3}{2}+\frac{x^2}{4}
$

となる。

$\phi_4(x)$ は、(23) で計算すると、 $y^2=x^2+x+1/4=2\phi_1(x)+1/4$ より、

\begin{eqnarray*}\phi_4(x)
&=&
4T[\phi_3(x)]
\ =\
T[(x^2+x)^2]
\ =\
T\l...
...+1)-\frac{\phi_2(x)}{2}
\ =\
\frac{\phi_2(x)}{5}(6\phi_1(x)-1)\end{eqnarray*}

となるので、これを展開すれば、

\begin{eqnarray*}\phi_4(x)
&=&
\frac{x(x+1)(2x+1)}{30}\times(3x^2+3x-1)
\\ &...
...)
\\ &=&
\frac{x^5}{5}+\frac{x^4}{2}+\frac{x^3}{3}-\frac{x}{30}\end{eqnarray*}

となる。 一方、$\phi_4(x)$ を直接 (15) から計算すれば、

\begin{eqnarray*}4\int_0^x\phi_3(t)dt
&=&
\int_0^t(t^4+2t^3+t^2)dt
\ = \
\fr...
...1}{2}-\frac{1}{3}
\ =\
\frac{-6+15-10}{30}
\ =\ -\frac{1}{30}\end{eqnarray*}

より、

\begin{eqnarray*}\phi_4(x)
&=&
4\int_0^x\phi_3(t)dt
+ 4x\int_0^{-1}\phi_3(t)d...
...c{x^3}{3}-\frac{x}{30}
\\ &=&
\frac{x}{30}(6x^4+15x^3 +10x^2-1)\end{eqnarray*}

となる。 [T2] より $6x^4+15x^3 +10x^2-1$$(x+1)(2x+1)$ で割り切れるので、 実際に割り算を実行すれば、組み立て除法なら 3 行位の計算で済み、

\begin{eqnarray*}6x^4+15x^3 +10x^2-1
&=& (x+1)(6x^3+9x^2+x-1)
\\ &=&
(x+1)(2x+1)(3x^2+3x-1)\end{eqnarray*}

のようになり、 $3x^2+3x-1=3(x^2+x)-1=6\phi_1(x)-1$ より、 前と同じものが得られることがわかる。

$\phi_5(x)$ は、 $G_2(X) = (6X-1)/5$ なので

  $\displaystyle
H_2(X)
= \int_0^X \left(\frac{6Y^2}{5}-\frac{Y}{5}\right)dY
= \frac{2X^3}{5}-\frac{X^2}{10}$ (26)
となるから、(25) より、

\begin{eqnarray*}\phi_5(x)
&=&
\frac{10}{3}H_2(\phi_1(x))
\ =\
\frac{\phi...
...\ &=&
\frac{x^6}{6}+\frac{x^5}{2}+\frac{5x^4}{12}-\frac{x^2}{12}\end{eqnarray*}

となる。ちなみに、この最後の式が正しいことは、 (13) を用いて微分で確認することもできる。

以下、計算結果のみを示す。紹介するのは、 ファウルハーバーの定理の形の式 ([T1'], [T2'])、 因数分解の形、および展開した式の 3 つの形である。 なお、因数分解式は、[T1'], [T2'] の形の $\phi_1$, $\phi_2$ の 因数だけの因数分解式を紹介するが、 $F_n(\phi_1)$, $G_n(\phi_1)$ の部分が さらに有理数係数の範囲で因数分解できるかもしれないが、 それは確認していない。 また、手計算での計算例なので、 計算間違いなどが含まれる可能性もある。

\begin{eqnarray*}\phi_6(x)
&=&
\frac{\phi_2}{7}(12\phi_1^2-6\phi_1+1)
\\ &=&...
...6}{20}
\\ &&\mbox{}+\frac{5\cdot 13x^4}{12}
-\frac{691x^2}{420}\end{eqnarray*}

ここまでの式を見ると、これらの式にはさらに次の性質があることがわかる。

いずれも、それらが正しいことも容易に証明できる (証明は省略)。

なお、$G_m$ から $H_m$ を計算する (24) と (25)、および [T1'] より、 $x$, $y$ を介さずに $G_n$ から 直接 $F_{n+1}$ を求める式

  $\displaystyle
XF_{n+1}(X)
= \frac{2(2n+1)}{3}H_n(X)
= \frac{2(2n+1)}{3}\int_0^X YG_n(Y)dY$ (27)
が得られる。 逆に $F_n$ から $G_n$ を直接求める式を作ることもできなくはないが、 その計算は、以下に示すようにあまり易しくはない。 $\hat{F}_n(X)=XF_n(X)$ とすると、

$\displaystyle \phi_{2n}(x)
= 2nT\left[\phi_{2n-1}\right]
= 2nT\left[\hat{F}_n(\phi_1)\right]
$

であり、よってこの式を微分すると
  $\displaystyle
\phi_{2n}'(x)
= 2n\{\hat{F}_n(\phi_1(x)) + C_{2n}\}$ (28)
となる。一方、 $\hat{G}_n(X)=XG_n(X)$ として、

$\displaystyle \phi_{2n}(x)
= \phi_2(x)G_n(\phi_1(x))
= \frac{2x+1}{3}\phi_1(x)G_n(\phi_1(x))
= \frac{2x+1}{3}\hat{G}_n(\phi_1(x))
$

を微分すると、
$\displaystyle \phi_{2n}'(x)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2}{3}\hat{G}_n(\phi_1(x))
+ \frac{2x+1}{3}\hat{G}_n'(\phi_1(x)) \phi_1'(x)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2}{3}\hat{G}_n(\phi_1(x))
+ \frac{(2x+1)^2}{6}\hat{G}_n'(\phi_1(x))$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2}{3}\hat{G}_n(\phi_1(x))
+ \frac{8\phi_1(x)+1}{6}\hat{G}_n'(\phi_1(x))$ (29)

となるので、(28), (29) より、 $\hat{G}_n(X)$ を求める微分方程式
  $\displaystyle
4\hat{G}_n(X) + (8X+1)\hat{G}_n'(X)
= 12n\{\hat{F}_n(X) + C_{2n}\}$ (30)
が得られる。この左辺を $\sqrt{8X+1}$ で割れば、

$\displaystyle \frac{4}{\sqrt{8X+1}}\hat{G}_n(X) + \sqrt{8X+1}\,\hat{G}_n'(X)
=\frac{d}{dX}\left(\sqrt{8X+1}\,\hat{G}_n(X)\right)
$

となるので、 $\hat{G}_n(0)=0$ より、

$\displaystyle \sqrt{8X+1}\,\hat{G}_n(X)
= \int_0^X\frac{12n}{\sqrt{8Y+1}}
(\hat{F}_n(Y)+C_{2n})dY
$

が得られ、よって $F_n$ から $G_n$ を計算する公式
  $\displaystyle
XG_n(X)
= \frac{1}{\sqrt{8X+1}}
\int_0^X\frac{12n}{\sqrt{8Y+1}}
(YF_n(Y)+C_{2n})dY$ (31)
が得られる。 左辺は $X$ の多項式であるから、 定数 $C_{2n}$ は、右辺の積分で平方根の式 $\sqrt{8X+1}$ が 残らないように選べばよい。

例えば、$F_2(X)=X$ から (31) を用いて $G_2(X)\ (=(6X-1)/5)$ を計算してみる。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{XG_2(X)
\ =\
\frac{1}{\sqrt{8X+1}}
\int_0^X\frac{...
...X+1)^2}{20}
-\frac{1}{\sqrt{8X+1}}\left(6C_4+\frac{1}{20}\right)\end{eqnarray*}

となるので、平方根の項を消すためには、$C_4=-1/120$ となり、 そのとき、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{XG_2(X)
\ =\
6X^2-\frac{1}{20}-8X^2-X + \frac{16}{...
...
\\ &=&
\frac{6}{5}X^2 - \frac{1}{5}X
\ =\
\frac{X}{5}(6X-1)\end{eqnarray*}

となって $G_2(X) = (6X-1)/5$ が得られるが、 計算は $H_2$ の計算 (26) に比べればかなり面倒で、 これで $\phi_{2n}$ を計算をするのはあまり実用的ではない。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-03-16