7 最後に

本稿では最も基本的な漸化式である定数係数の線形漸化式に関する 一般論をいくつか紹介し、フィボナッチ数列に関する考察を行なった。

これは実は最近「数学ガール」(結城浩、ソフトバンククリエイティブ) なる本で フィボナッチ数列の話を目にしたことから、 ふと漸化式に関してまとめてみようと思い立ったものであるが、 本稿にはさして目新しいことが書いてあるわけではなく、 数列の一般論や「差分方程式」としてはよく知られていることばかりである。

しかし、高校だけでなく大学の講義でも (理学部でも工学部でも) こういう話が取り扱われることはほとんどなく、 そのためそのような一般書は、書店や図書館などでも あまり目にすることがないだろうと思うので、 その点では多少意味があるのではないかと思う。

なお、線形常微分方程式を既習の方は気がついたと思うが、 本稿の話は、定数係数線形常微分方程式の理論とほぼ同じである。 同次と非同次の関係、同次方程式の解空間、特性方程式と解の関係、 特性方程式が重解を持つ場合や複素数解を持つ場合、 いずれも常微分方程式の解 (連続的な関数) に用いられる手法を 数列の漸化式の解 (離散的な数列) に焼き直したものになっていて、 連続と離散の深い類似性の一例になっている2

また、単独の $N$ 項の漸化式と連立の漸化式は お互いに行き来することができるので、 本稿の 4 節のように連立の漸化式を $N$ 項の単独漸化式に帰着させる方法とは逆に、 $N$ 項単独漸化式を連立の漸化式に帰着させ、 行列の $n$ 乗の計算で説明する、という方法もある。 しかし、行列の $n$ 乗の話をするには、 行列の対角化や Jordan 標準形など、 本稿よりさらに深い線形代数の知識が必要となるので、 そちらの方向は本稿では避けた。

特性方程式と漸化式の関係 (命題 52.) も、 常微分方程式の演算子法に対応し、 数列の前進演算子を使って説明する方が綺麗に説明できるのであるが、 なるべく初等的な説明を、と考えてあえてそれは使わなかった。

以上、本稿の内容は有用なものであるとはあまり思えないが、 例えば高校の漸化式の一般化の話などとしてでも、 何かの参考になれば幸いである。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年8月5日