次へ: 3.4 積、商、合成関数 上へ: 3 ベキ級数 前へ: 3.2 項別微分、項別積分 (PDF ファイル: series1.pdf)


3.3 ベキ級数の一意性

3.2 節で、$\arctan x$$\log(1+x)$ の ベキ級数展開を、他のベキ級数の積分などを使って得たが、 これははたして普通のマクローリン展開の結果と一致するのだろうか。 それに対しては、次の一意性定理がその一致を保証してくれる。


定理 14

$\vert x\vert<r$ のすべての $x$ に対して

\begin{displaymath}
\sum_{n=0}^\infty a_n x^n=\sum_{n=0}^\infty b_n x^n
\end{displaymath}

が成り立つならば、すべての $n$ に対し $a_n=b_n$ が成り立つ。


証明

$\vert x\vert<r$ では絶対収束するので、両辺の差を考えると、

\begin{displaymath}
\sum_{n=0}^\infty(a_n-b_n)x^n=0
\end{displaymath}

となるから、$c_n=a_n-b_n$ とすれば、結局 $\vert x\vert<r$ のときに

\begin{displaymath}
\sum_{n=0}^\infty c_nx^n=0
\end{displaymath}

であるときにすべての $c_n$ が 0 であることを示せばよい。

$\displaystyle f(x)=\sum_{n=0}^\infty c_nx^n$ とおくと、 $\vert x\vert<r$$f(x)=0$ であり、$f(0)=c_0$ なのでまず $c_0=0$ が言える。 また、定理 12 により、

\begin{displaymath}
f'(x)=c_1+2c_2 x+3c_3x^2+4c_4x^3+\cdots
\end{displaymath}

であり、$\vert x\vert<r$$f(x)=0$ よりもちろんここで $f'(x)=0$ でもあるので、 $f'(0)=c_1=0$ となる。 同様に繰り返し項別微分を行って $x=0$ を代入すれば、 結局すべての $n$ に対して $c_n=0$ であることが言える。


この定理により、微分や積分、$ax^k$ の積や商によって得られた級数や、 (13) のように $x$ の代わりに $ax^k$ などを代入して 得られる級数が、 マクローリン展開の計算によって得られるものと 一致することが言えることになる。 例えば、

\begin{displaymath}
\sin x=\frac{x}{1!}-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\cdots
\end{displaymath}

$x$ で割って

\begin{displaymath}
\frac{\sin x}{x}=\frac{1}{1!}-\frac{x^2}{3!}+\frac{x^4}{5!}-\cdots
\end{displaymath}

となるが、この右辺は左辺の関数 (厳密には、$x=0$ では左辺は定義されないが、 その値は $x\rightarrow 0$ への極限として決めたもの) のマクローリン展開を計算したものに等しくなる。 しかし、実際には左辺のマクローリン展開の計算はかなり大変である。

マクローリン展開と一致することは、より明確に次の形で与えられる。


系 15

$\vert x\vert<r$ $\displaystyle f(x)=\sum_{n=0}^\infty a_n x^n$ であるとき、 $a_n=f^{(n)}(0)/n!$ となる。


証明

$f(0)=a_0$ は OK. 定理 12 より、

\begin{displaymath}
f'(x)=\sum_{n=1}^\infty na_n x^{n-1}
\end{displaymath}

なので $f'(0)=a_1$ となる。また、

\begin{displaymath}
f''(x)=\sum_{n=2}^\infty n(n-1)a_n x^{n-2}
\end{displaymath}

より $f''(0)=2\cdot 1a_2$ となる。 これを繰り返せばよい。


さらに、この命題 15 より奇関数、偶関数に関しては 次が言える。


命題 16

$\vert x\vert<r$ $\displaystyle f(x)=\sum_{n=0}^\infty a_n x^n$ が、


証明

$f(x)$ が奇関数のとき、$f(-x)=-f(x)$ であるから、 これに $x=0$ を代入すると $f(0)=0$ が得られる。

また、2 回微分すると $f''(-x)=-f''(x)$ であるから、 これに $x=0$ を代入して $f''(0)=0$ が得られる。 同様にして $f^{(2n)}(0)=0$ ( $n=0,1,2,\ldots$) が言える。 よって、系 15 より $a_{2n}=0$ となる。

偶関数の場合は $f(-x)=f(x)$ であるから、 $-f'(-x)=f(x)$ となり、よって $f'(0)=0$ となる。 以下同様に $f^{(2n-1)}(0)=0$ が言え、よって $a_{2n-1}=0$ が言える。



次へ: 3.4 積、商、合成関数 上へ: 3 ベキ級数 前へ: 3.2 項別微分、項別積分
竹野茂治@新潟工科大学
2006年9月26日