6 任意のフーリエ級数

ついでにもう一つ、周期超関数空間でのフーリエ級数の 収束性に関する定理を紹介する。

命題 1 より周期超関数 $f$ は緩増加超関数なので、 ある自然数 $m$, 正の定数 $C_f$ があって、任意の $\phi\in\mathcal{S}$ に対し

\begin{displaymath}
\vert\left\langle  f, \phi \right\rangle \vert\leq C_f\Vert\phi\Vert _m\end{displaymath} (15)

が成り立つ。ここで、$\Vert\cdot\Vert _m$$\mathcal{S}$ のセミノルム
\begin{displaymath}
\Vert\phi\Vert _m = \max_{0\leq k\leq m}\sup_{x}(1+\vert x\vert)^m\vert D^k\phi(x)\vert
\end{displaymath}

である。よって、$f$ のフーリエ級数 $a_n(f)$$n$ に関する大きさを考えると、
\begin{eqnarray*}\vert a_n(f)\vert
& = &
\left\vert\left\langle  f, \frac{2}...
...^m
\left\vert D^k\left(e_T\cos\frac{2n\pi}{T}x\right)\right\vert\end{eqnarray*}


となるが、$e_T$$\mathcal{D}$ の元であるからその微分も含めて $(1+\vert x\vert)^m$ を かけても有界 ($m$, $e_T$ に依存する定数で評価できる) で、結局
\begin{displaymath}
\vert a_n(f)\vert\leq C_1 n^m
\end{displaymath}

の形の式で評価できることがわかる。 ここで $C_1$$f$, $T$, $e_T$, $m$ に依存する定数である。 $b_n(f)$ も同様なので、結局次が言える。


補題 9

$f\in\mathcal{D}'_T$ のフーリエ係数 $a_n(f)$, $b_n(f)$ は、$n$ に 関して高々多項式オーダー、すなわち $n$ によらないある自然数 $m$ と ある定数 $C_0$ があって

\begin{displaymath}
\vert a_n(f)\vert\leq C_0 n^m, \hspace{0.5zw}\vert b_n(f)\vert\leq C_0 n^m
\end{displaymath} (16)

とできる。


もちろん、このような大きなオーダーの係数のフーリエ級数は 普通の意味では収束しないが、 $\mathcal{D}'_T$ では収束することになる。

逆に、高々多項式オーダーであるようなフーリエ係数を持つフーリエ級数は、 $\mathcal{D}'$ ( $\mathcal{D}'_T$) で常に収束するだろうか。 これについては次のことが言える。


定理 10

$\alpha_n$, $\beta_n$ が多項式オーダー、すなわち $\vert\alpha_n\vert\leq C_0 n^m$, $\vert\beta_n\vert\leq C_0 n^m$ であるとき、それらを係数とするフーリエ級数

\begin{displaymath}
f_n(x) = \frac{\alpha_0}{2}
+ \sum_{k=1}^n \left(\alpha_k\cos\frac{2k\pi}{T}x
+\beta_k\sin\frac{2k\pi}{T}x\right)
\end{displaymath} (17)

は、 $\mathcal{D}'_T$ のある周期超関数 $f$$\mathcal{D}'$ で収束する。


この証明には、2 通りの方法があるが、 一つはその極限の周期超関数を具体的に構成する方法である。 $m$$m\geq 2$ と仮定し (そうしてよい)、 $f_n(x)$ から $\alpha_0/2$ を取り除いたものを 形式的に $2m$ 回積分すると

\begin{displaymath}
F_n(x) = \sum_{k=1}^n(-1)^m\left(\frac{T}{2k\pi}\right)^{2m}...
...pha_k\cos\frac{2k\pi}{T}x + \beta_k\sin\frac{2k\pi}{T}x\right)
\end{displaymath}

が得られるが、このフーリエ級数の係数は $O(k^{-m})$ なので、 $m\geq 2$ より、ある連続関数 $F_0(x)$ に一様収束する。 もちろん、 $F_0\in\mathcal{D}'_T$ であり、 超関数での導関数 $D^{2m}F_0$ $\mathcal{D}'_T$ に入る。 よって $f_n$ の極限は、 $\alpha_0/2 + D^{2m}F_0$ となる、 という論法である。

もう一つの方法は、任意の $\phi\in\mathcal{D}$ に対して $\left\langle  f_n(x), \phi(x) \right\rangle $ が収束列 (コーシー列) となることを言い、 $\mathcal{D}'$ の弱完備性 (例えば [2] 定理 3.4.6) により、 その極限が $\mathcal{D}'$ に存在し、 それも $\mathcal{D}'_T$ に入ることが示される、という方法である。 こちらの方法の場合、 $\left\langle  f_n(x), \phi(x) \right\rangle $ が収束列となることを示す必要があるが、 これは、次のようにして示される。

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\left\langle  f_n(x), \phi(x) \right\rangle
=
\l...
...\alpha_kT}{2}a_k(\phi_T)
+ \frac{\beta_kT}{2}b_k(\phi_T)\right)\end{eqnarray*}


なるが、 $\phi_T\in C^\infty_T $ のフーリエ係数 $a_k(\phi_T)$, $b_k(\phi_T)$ は以下のように 早く減衰することが知られている。


命題 11

$\phi\in C^\infty_T $ のフーリエ係数 $a_n(\phi)$, $b_n(\phi)$ は、 任意の自然数 $p$ に対し

\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}n^pa_n(\phi)
=
\lim_{n\rightarrow\infty}n^pb_n(\phi)
= 0
\end{displaymath} (18)


この証明にはベッセルの不等式を用いるが、 それは 9 節で紹介する。

この命題 11$p$$m+2$ と取れば、級数

\begin{displaymath}
\left\langle  f_n(x), \phi(x) \right\rangle
=
\frac{\alp...
...pha_kT}{2}a_k(\phi_T)
+ \frac{\beta_kT}{2}b_k(\phi_T)\right)
\end{displaymath}

$k$ 項は、ある定数 $C$ に対し $C/k^2$ 以下となるので、 $\left\langle  f_n(x), \phi(x) \right\rangle $ は絶対収束する。 よって、$f_n$ の極限が $\mathcal{D}'_T$ 内に存在することになる。

この定理 10 から、 超関数の範疇でフーリエ級数が収束する必要十分条件は、 そのフーリエ係数が高々多項式オーダーであることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2015年6月1日