5 多重線形性

他にも、(1) の両辺の多重線形性を利用する証明もある。

一般に、$N$ 個の $L$ 次元ベクトル $\mbox{\boldmath$A$}_1$,..., $\mbox{\boldmath$A$}_N$ の、 スカラー値、またはベクトル値の写像 $f(\mbox{\boldmath$A$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$A$}_N)$ が、 各 $\mbox{\boldmath$A$}_j$ に対して線形、すなわち、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{f(\mbox{\boldmath$A$}_1,\ldots,\mbox{\boldmath$A$}_j+\...
...}_j,\ldots,\mbox{\boldmath$A$}_N)}\\
\lefteqn{(j=1,2,\ldots,N)}\end{eqnarray*}


を満たしているとき、$f$多重線形 (multi-linear) であるという。 外積 $\mbox{\boldmath$A$}\times\mbox{\boldmath$B$}$、内積 $\mbox{\boldmath$A$}\cdot\mbox{\boldmath$B$}$ $\mbox{\boldmath$A$}$, $\mbox{\boldmath$B$}$ に対して多重線形 (このように $N=2$ の場合は、 特に 双線型 (bilinear) とも呼ばれる) であるので、 容易に (1) の両辺は $\mbox{\boldmath$A$}$, $\mbox{\boldmath$B$}$, $\mbox{\boldmath$C$}$ に対して 多重線形であることがわかる。

今、$L$ 次元の基本ベクトルを $\mbox{\boldmath$e$}_1$,..., $\mbox{\boldmath$e$}_L$ とすると、 各 $\mbox{\boldmath$A$}_j$

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$A$}_j = A^1_j\mbox{\boldmath$e$}_1+\cdots+A^L_j\mbox{\boldmath$e$}_L
\end{displaymath}

と一意に表されるから、多重線形写像 $f$ の値は、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{f(\mbox{\boldmath$A$}_1,\mbox{\boldmath$A$}_2,\ldots,\...
...{m_1},\mbox{\boldmath$e$}_{m_2},\ldots,\mbox{\boldmath$e$}_{m_N})\end{eqnarray*}


のように、基本ベクトルに対する $f$ の値のスカラー倍の和で表されることになる。 例えば $\mbox{\boldmath$A$}$, $\mbox{\boldmath$B$}$ が 3 次元ベクトルの場合は、
\begin{eqnarray*}f(\mbox{\boldmath$A$},\mbox{\boldmath$B$})
&=&
f(A_x\mbox{\bo...
...x{\boldmath$j$})+A_zB_zf(\mbox{\boldmath$k$},\mbox{\boldmath$k$})\end{eqnarray*}


といった具合である。

よって、(1) のように、両辺がいずれも多重線形である場合は、 その等式を示すには、各ベクトルが基本ベクトルである場合についてのみ 示せばよいことになる。この方針で考える。


証明 4

(1) の場合は、 $\mbox{\boldmath$A$}$, $\mbox{\boldmath$B$}$, $\mbox{\boldmath$C$}$ が 基本ベクトル $\mbox{\boldmath$i$}$, $\mbox{\boldmath$j$}$, $\mbox{\boldmath$k$}$ である場合についてのみ 示せばよい。

そのような組は、 $3\times 3\times 3 =27$ 通りあるが、 $\mbox{\boldmath$B$}=\mbox{\boldmath$C$}$ の場合は (1) の両辺とも明らかに $\mbox{\boldmath$0$}$ となって成立するので、 それら ($3\times 3=9$ 通り) は調べなくてよい。

また、 $\mbox{\boldmath$A$}$, $\mbox{\boldmath$B$}$, $\mbox{\boldmath$C$}$ $\mbox{\boldmath$i$}$, $\mbox{\boldmath$j$}$, $\mbox{\boldmath$k$}$ の全部異なるものになる場合 ($3!=6$ 通り) は、 $\mbox{\boldmath$B$}\times\mbox{\boldmath$C$}$ $\mbox{\boldmath$A$}$ と平行になるので (1) の左辺は $\mbox{\boldmath$0$}$ であり、 またこの場合は $\mbox{\boldmath$A$}\cdot\mbox{\boldmath$B$}=\mbox{\boldmath$A$}\cdot\mbox{\boldmath$C$}=0$ なので (1) の右辺も $\mbox{\boldmath$0$}$ となり、よってこれも調べなくてよい。

これで残るのは、以下の 12 通りとなる。

\begin{eqnarray*}(\mbox{\boldmath$A$},\mbox{\boldmath$B$},\mbox{\boldmath$C$})
...
...\ (\mbox{\boldmath$k$},\mbox{\boldmath$j$},\mbox{\boldmath$k$})
\end{eqnarray*}


しかし、(1) で $\mbox{\boldmath$B$}$ $\mbox{\boldmath$C$}$ を交換すると、 両辺とも $(-1)$ 倍になるだけなので、 そのような交換に関しても一方だけを調べればよいから、 結局上の半分の、以下の 6 通りのみ調べればよいことがわかる。
\begin{displaymath}
(\mbox{\boldmath$A$},\mbox{\boldmath$B$},\mbox{\boldmath$C$...
...(\mbox{\boldmath$k$},\mbox{\boldmath$k$},\mbox{\boldmath$j$})
\end{displaymath}

これらの場合は、いずれも $\mbox{\boldmath$A$}\cdot\mbox{\boldmath$B$}=1$, $\mbox{\boldmath$A$}\cdot\mbox{\boldmath$C$}=0$ なので、(1) の右辺は $-\mbox{\boldmath$C$}$ となる。 (1) の左辺は、
\begin{eqnarray*}\mbox{\boldmath$i$}\times(\mbox{\boldmath$i$}\times\mbox{\boldm...
...{\boldmath$k$}\times(-\mbox{\boldmath$i$})=-\mbox{\boldmath$j$}
\end{eqnarray*}


となり、確かにいずれも $-\mbox{\boldmath$C$}$ になっているので (1) は成り立つ。


この証明 4 も、 成分計算同様、(1) を確認しているだけなので、 左辺から右辺が導かれる理由がわかるものではない。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年5月21日