3 指数法則

次は、$\exp(x)$ に対する指数法則などの基本性質を見ていく。

まず、$x<y$ のとき、

\begin{displaymath}
\left(1+\frac{x}{n}\right)^{n}<\left(1+\frac{y}{n}\right)^{n}
\end{displaymath}

であるから、
\begin{displaymath}
\exp(x)\leq \exp(y)\hspace{1zw}(x<y)\end{displaymath} (18)

の単調増加性が得られる。なお、実際にはこの等号も外すことができるが、 それは後で示す。

また、$n\geq 1$, $x>0$ に対して、

\begin{displaymath}
\left(1+\frac{x}{n}\right)^{n} = \sum_{k=0}^nb^n_k x^k \geq 1+x
\end{displaymath}

であるから、
\begin{displaymath}
\exp(x)\geq 1+x\hspace{1zw}(x>0)\end{displaymath} (19)

が成り立ち、$x<0$ ならば (16), (19) より
\begin{displaymath}
\exp(x) = \frac{1}{\exp(-x)} \leq \frac{1}{1-x}\end{displaymath} (20)

が成り立つことがわかる。 (16), (19) より $x$ が正でも負でも $\exp(x)$ は常に正となるので、 (19), (20) から、漸近性質
\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow \infty}{\exp(x)}=\infty,
\hspace{1zw}
\lim_{x\rightarrow -\infty}{\exp(x)}=0\end{displaymath} (21)

が得られる (厳密にははさみうちの原理による)。

次は指数法則を考える。まず、自然数 $m$ に対して、

\begin{displaymath}
\left\{\left(1+\frac{x}{n}\right)^{n}\right\}^m=\left(1+\frac{x}{n}\right)^{nm} = \left(1+\frac{mx}{nm}\right)^{nm}
\end{displaymath}

より、 $n\rightarrow\infty$ の極限を取れば
\begin{displaymath}
\exp(x)^m = \exp(mx)\end{displaymath} (22)

が成り立つことがわかる。 また、(16) と組み合わせると
\begin{displaymath}
\frac{1}{\exp(x)^m} = \frac{1}{\exp(mx)} = \exp(-mx)
\end{displaymath}

も成り立つので、以上を合わせると、整数 $m$ に対して、
\begin{displaymath}
\exp(mx) = \left\{\begin{array}{ll}
\exp(x)^m & (\mbox{$m>...
...x)^{\vert m\vert}} & (\mbox{$m<0$\ のとき})
\end{array}\right.\end{displaymath} (23)

が得られる。さらに、自然数 $k$ に対して、(22) より
\begin{displaymath}
\exp(x)
= \exp\left(k\times\frac{x}{k}\right)
= \exp\left(\frac{x}{k}\right)^k
\end{displaymath}

となるから、よって
\begin{displaymath}
\exp\left(\frac{x}{k}\right) = \sqrt[k]{\exp(x)}
\end{displaymath}

となる。これと (23) を組み合わせれば、 整数 $m$, $k$ ($k>0$) に対して、
\begin{displaymath}
\exp\left(\frac{m}{k}x\right) = \left\{\begin{array}{ll}
\...
...)^{\vert m\vert}}} & (\mbox{$m<0$\ のとき})
\end{array}\right.\end{displaymath} (24)

となることもわかる。 これは、有理数 $q$ に対して「 $(e^x)^q = e^{qx}$」を示したことに相当する。 しかし、実数 $y$ に対する「 $(e^x)^y=e^{xy}$」を示すには、 一般の $a$ に対する「$a^x$」が必要になるので、それはまだ示すことはできない。

次は、 $\exp(x)\exp(y)$ を考える。

\begin{eqnarray*}\left(1+\frac{x}{n}\right)^{n}\left(1+\frac{y}{n}\right)^{n}
&...
...+\frac{x+y}{n}\right)^{n}\left(1+\frac{xy}{n^2+n(x+y)}\right)^{n}\end{eqnarray*}


となるが、命題 4 により最後の式は $\exp(x+y)$ と 1 の積に収束するので、
\begin{displaymath}
\exp(x)\exp(y) = \exp(x+y)\end{displaymath} (25)

が成り立つことになる。これは「 $e^x e^y = e^{x+y}$」に相当する。

なお、$x>0$ であれば (19) より $\exp(x)>1$ なので、 (25) より $x<y$ に対して

\begin{displaymath}
\exp(y) = \exp(y-x)\exp(x) > \exp(x)\end{displaymath} (26)

が成り立つことがわかる。 これは、(18) の等号を外すことができることを 示したことになる。

(25) で $y$$-y$ とすれば、(16) より

\begin{displaymath}
\frac{\exp(x)}{\exp(y)} = \exp(x-y)\end{displaymath} (27)

が成り立つこともわかる。これは「 $e^x/e^y = e^{x-y}$」に相当する。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年2月2日