2 デルタ関数と問題

デルタ関数 $\delta(x)$ は通常の関数ではなく超関数で、 通常は
  $\displaystyle
\delta(x) = \left\{\begin{array}{ll}
\infty & (x=0)\\
0 & (x\neq 0)
\end{array}\right. ,\hspace{1zw}\int\delta(x)dx = 1$ (1)
のようにみなされ、連続関数 $f(x)$ に対し
  $\displaystyle
\int_{-\infty}^{\infty} \delta(x)f(x)dx = f(0)$ (2)
のような性質を持つものとして知られている。 当然、通常の実数値関数にはそういうものはなく、 数学では $\mathcal{D} = C_0^\infty$ 上の汎関数 ($\mathcal{D}'$) として、
  $\displaystyle
\langle\delta(x),\phi(x)\rangle = \phi(0)\hspace{1zw}(\phi\in\mathcal{D})$ (3)
を満たすものとして定義される。

一般に超関数 $T(x)\in\mathcal{D}'$$C^\infty$ 関数 $\alpha(x)$ をかけた $\alpha(x)T(x)$$\mathcal{D}'$ 上に定義でき、それは

  $\displaystyle
\langle\alpha(x)T(x),\phi(x)\rangle = \langle T(x),\alpha(x)\phi(x)\rangle$ (4)
となる。そして、超関数 $T$ の微分 $T'$ は、
  $\displaystyle
\langle T'(x),\phi(x)\rangle = -\langle T(x),\phi'(x)\rangle$ (5)
の部分積分形で定義される。

さて気になった式というのは、デルタ関数 $\delta(x)$$C^\infty$ 関数 $\alpha(x)$ をかけた $\alpha(x)\delta(x)$ の導関数であるが、 当然積の微分から、

  $\displaystyle
(\alpha(x)\delta(x))' = \alpha'(x)\delta(x)+\alpha(x)\delta'(x)$ (6)
となるのであるが、デルタ関数の性質 (1) から、実は
  $\displaystyle
\alpha(x)\delta(x) = \alpha(0)\delta(x)$ (7)
となることが知られている。ここからすると、 積の微分 (6) は、
  $\displaystyle
(\alpha(x)\delta(x))' = \alpha'(x)\delta(x)+\alpha(x)\delta'(x)
= \alpha'(0)\delta(x)+\alpha(0)\delta'(x)$ (8)
となるような気がするが、一方、微分の前に (7) を適用すると、
  $\displaystyle
(\alpha(x)\delta(x))' = (\alpha(0)\delta(x))'
= \alpha(0)\delta'(x)$ (9)
となって、(8) と合わないような気がする。 これは、果たしてどちらが正しいのだろうか、という話である。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-01-27