5 一定間隔をあけた曲線

さて、元の曲線 $C_1$ に対する前節の設定のもとで、 $C_1$ から $a$ だけ外側に離れた曲線 $C_2$ のパラメータ表示を考える。

まず、$\mathrm{P}(t)$ での外向き単位法線ベクトル $\mbox{\boldmath$n$}=\mbox{\boldmath$n$}(t)$ を 求める。 $\mbox{\boldmath$r$}'(t)=(x'(t),y'(t))$$C_1$ の接ベクトルで、$\mathrm{P}(t)$ の 進行方向を向く。 よって$C_1$ の外側は $\mbox{\boldmath$r$}'(t)$ の右側になり、 $\mbox{\boldmath$n$}(t)$ $\mbox{\boldmath$r$}'(t)$ を時計回りに $90^\circ$ 回転したベクトル $\mbox{\boldmath$\hat{r}$}(t)=(y'(t),-x'(t))$ と同じ方向を向くので、

  $\displaystyle
\mbox{\boldmath$n$}(t) = \frac{\mbox{\boldmath$\hat{r}$}(t)}{\ve...
...eft(\frac{y'}{\sqrt{(x')^2+(y')^2}},
-\,\frac{x'}{\sqrt{(x')^2+(y')^2}}\right)$ (7)
となる。よって、
  $\displaystyle
\overrightarrow{\mathrm{OQ(t)}}=\mbox{\boldmath$q$}(t)=\mbox{\boldmath$r$}(t)+a\mbox{\boldmath$n$}(t)
\hspace{1zw}(c\leq t\leq d)$ (8)
によって定まる $\mathrm {Q}(t)$ の軌跡を $C_2$ とすると (図 8)、 これが $C_1$ から $a$ だけ離れた曲線の候補となる。 あとは実際に $C_1$$C_2$ の距離がすべての点で $a$ となることを 示せばよい。
図 8: $\mathrm {Q}(t)$ の軌跡 $C_2$
\includegraphics[height=0.3\textheight]{crv2-c2.eps}

まず、 $\overrightarrow{\mathrm{P}(t)\mathrm{Q}(t)}=a\mbox{\boldmath$n$}(t)$ が、 $\mathrm{P}(t)$$C_1$ に垂直なだけでなく、 $\mathrm {Q}(t)$$C_2$ にも垂直であることを示す。 そのためには、$C_2$$\mathrm {Q}(t)$ での接ベクトル

  $\displaystyle
\mbox{\boldmath$q$}'(t)=\mbox{\boldmath$r$}'(t)+a\mbox{\boldmath$n$}'(t)$ (9)
$\mbox{\boldmath$n$}(t)$ と垂直であることを示せばよい。

$\mbox{\boldmath$n$}$ $\mbox{\boldmath$r$}'$ は垂直なので、 (9) よりあとは $\mbox{\boldmath$n$}$ $\mbox{\boldmath$n$}'$ が垂直で あることを示せばよいが、 $\vert\mbox{\boldmath$n$}\vert^2=\mbox{\boldmath$n$}\mathrel{・}\mbox{\boldmath$n$}=1$ なので、 これを $t$ で微分すれば、

$\displaystyle 0 = \mbox{\boldmath$n$}'\mathrel{・}\mbox{\boldmath$n$}+\mbox{\bol...
...l{・}\mbox{\boldmath$n$}' = 2\mbox{\boldmath$n$}\mathrel{・}\mbox{\boldmath$n$}'
$
となり、よって $\mbox{\boldmath$n$}\perp\mbox{\boldmath$n$}'$ がわかる。これで、 $\overrightarrow{\mathrm{P}(t)\mathrm{Q}(t)}$ が、$\mathrm {Q}(t)$$C_2$ にも 垂直であることがわかった。

これを用いて、$\mathrm{P}(t)$$C_2$ 上の点で最短距離に あるのが $\mathrm {Q}(t)$ であることを示す。 逆に、$\mathrm {Q}(t)$ 以外に $C_2$ 上に $\mathrm{P}(t)$ との距離が より近い点 $\mathrm {Q}(s)$ があったとする ($t\neq s$)。 もし、$\mathrm {Q}(s)$ $\overrightarrow{\mathrm{P}(t)\mathrm{Q}(s)}$$C_2$ と 垂直でなければ、$\mathrm {Q}(s)$ の付近で、より $\mathrm{P}(t)$ に近い点が 取れることになるので、そのようにしてより近い点を探していけば、 最後にその付近では $\mathrm{P}(t)$ と最も近い $C_2$ 上の点 $\mathrm{Q}(s')$ が 取れて、 $\mathrm{Q}(s')$ では $\overrightarrow{\mathrm{P}(t)\mathrm{Q}(s')}$$C_2$ と 垂直になるはずである。この $s'$ を改めて $s$ とする (図 9)。

図 9: $C_2$ の点 $\mathrm {Q}(s)$
\includegraphics[height=0.3\textheight]{crv2-qs.eps}

すなわち、

  $\displaystyle
\vert\overrightarrow{\mathrm{P}(t)\mathrm{Q}(s)}\vert=b<a,
\hsp...
...\mathrm{P}(t)\mathrm{Q}(s)}\perp C_2
\hspace{0.5zw}(\mbox{$\mathrm{Q}(s)$\ で})$ (10)
となる ($t\neq s$)。一方、前に示したことにより、 $\mathrm {Q}(s)$ $\overrightarrow{\mathrm{P}(s)\mathrm{Q}(s)}$$C_2$ は 垂直なので、$\mathrm{P}(s)$, $\mathrm {Q}(s)$, $\mathrm{P}(t)$ は一直線上に あることになるが、(10) および $\vert\overrightarrow{\mathrm{P}(s)\mathrm{Q}(s)}\vert=a$ よりその位置関係は、 $\mathrm{P}(t)$ が線分 $\mathrm{P}(s)\mathrm{Q}(s)$ の上にあるか、または $\mathrm {Q}(s)$ が線分 $\mathrm{P}(s)\mathrm{P}(t)$ の上にあるかのいずれかとなる。 前者の場合は、$\mathrm{P}(t)$ が、$\mathrm{P}(s)$$C_1$ に外接する 半径 $a$ の円の中に含まれてしまうことになるので、 それは曲率に関する仮定 (6) (の下に書いたこと) に 反することになる。

また、後者の場合は、$\mathrm{P}(t)$$\mathrm{P}(s)$ の距離は $a+b$ で、 $\mathrm{P}(t)$$\mathrm{P}(s)$ での $C_1$ の外向きの法線の上にあることになる。 となればやはり $\mathrm{P}(t)$ が、$\mathrm{P}(s)$$C_1$ に外接する 半径 $a$ の円の中に含まれてしまうことになるので、 同じ仮定 (6) (の下に書いたこと) に 反することになる。 よってそれらはいずれも起こりえず、 結局 $\mathrm{P}(t)$$C_2$ 上の点で最短距離にあるのが $\mathrm {Q}(t)$ で あることがわかり、 すなわちすべての点で $C_1$$C_2$ との最短距離が $a$ で あることが示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-18