5 各点収束極限の厳密化

本節では、主に [1] の議論のあいまいさや評価に関する 修正を行う。

(14) の $u$ の条件は、 $k\leq \mu_n+u\sigma_n< k+1$ とも書けるが、 これは $k=\lfloor \mu_n+u\sigma_n\rfloor$ と同値であることに注意する。 そして、各 $u$ に対して $\tilde{u}_n = \tilde{u}_n(u)$ を、

  $\displaystyle
\mu_n + \tilde{u}_n\sigma_n = \lfloor\mu_n+u\sigma_n\rfloor
\hspace{0.5zw}(=k)$ (19)
となるように取ると、
$\displaystyle \mu_n + \tilde{u}_n\sigma_n \leq \mu_n+u\sigma_n
< \mu_n + \tilde{u}_n\sigma_n + 1
$
より、
  $\displaystyle
u- \frac{1}{\sigma_n}<\tilde{u}_n\leq u$ (20)
だから、 $n\rightarrow\infty$ のときに $\tilde{u}_n\rightarrow u$ となり、 また $k=\mu_n+\tilde{u}_n\sigma_n$ だから、 [1] で $k=\mu_n+u\sigma_n$ を代入して議論した代わりに $k=\mu_n+\tilde{u}_n\sigma_n$ を代入し、$u$ の代わりに $\tilde{u}_n$ を 用いれば $k$ は正しく整数となり、 [1] の議論が正当化できることになる。 それも本節で改めて紹介する。

本節では、$f^{(0)}_n(u)$ $n\rightarrow\infty$ の極限を求める。

まず、スターリングの公式

  $\displaystyle
n!=n^n\sqrt{2\pi n} e^{-n}(1+o(1))$ (21)
より、ある $N$ 以上の $n$ に対しては、
$\displaystyle 1- \frac{1}{2}<\frac{n!}{n^n\sqrt{2\pi n} e^{-n}}<1+ \frac{1}{2}
$
とできることになるので、$n\geq 1$ に対して $S(n)$
  $\displaystyle
S(n) = \frac{n!}{n^n\sqrt{2\pi n} e^{-n}}$ (22)
とすれば、$N$ 以下の $n$ も含め、すべての $n\geq 1$ に対し、
  $\displaystyle
0<M_1\leq S(n)\leq M_2<\infty$ (23)
となるような $M_1$, $M_2$ を取ることができ、かつ
  $\displaystyle
\lim_{n\rightarrow \infty}{S(n)}=1$ (24)
となることがわかる。

$f^{(0)}_n(u)$ では $1\leq k\leq n-1$ であるが、その $k$ に対して、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sigma_n\left(\begin{array}{c}n\\ k\end{array}\right)p...
...(\frac{np}{k}\right)^{k+1/2}\left(\frac{nq}{n-k}\right)^{n-k+1/2}\end{eqnarray*}
と書け、この後半部分を
  $\displaystyle
I_0 = \left(\frac{np}{k}\right)^{k+1/2}\left(\frac{nq}{n-k}\right)^{n-k+1/2}$ (25)
とすると、
\begin{eqnarray*}\frac{k}{np}
&=&
\frac{\mu_n+\tilde{u}_n\sigma_n}{np}
\ =\
...
...de{u}_n\sqrt{npq}}{nq}
\ =\
1 - \tilde{u}_n\sqrt{\frac{p}{nq}}\end{eqnarray*}
となるので、
  $\displaystyle
y_n = y_n(u) = \tilde{u}_n\sqrt{\frac{q}{np}},
\hspace{1zw}z_n = z_n(u) = - \tilde{u}_n\sqrt{\frac{p}{nq}}$ (26)
とすると、$I_0$
\begin{eqnarray*}I_0
&=&
(1+y_n)^{-k-1/2}(1+z_n)^{-n+k-1/2}
\\ &=&
(1+y_n)^{...
...-1/2}
\\ &=&
(1+y_n)^{-np(1+y_n)-1/2}
(1+z_n)^{-nq(1+z_n)-1/2}\end{eqnarray*}
と書けるので、$J_0=\log I_0$ とすると、
  $\displaystyle
J_0 = -\left\{np(1+y_n)+\frac{1}{2}\right\}\log(1+y_n)
-\left\{nq(1+z_n)+\frac{1}{2}\right\}\log(1+z_n)$ (27)
となる。これを、
\begin{eqnarray*}J_0 &=& J_1+J_2+J_3,\\
J_1 &=& -np\log(1+y_n)-nq\log(1+z_n),\...
...+z_n),\\
J_3 &=& -\frac{1}{2}\log(1+y_n)-\frac{1}{2}\log(1+z_n)\end{eqnarray*}
と分け、さらに $g_1(y)$ ($=O(y^2)$), $g_2(y)$ ($=O(y^3)$) を
  $\displaystyle
g_1(y) = \log(1+y)-y,
\hspace{1zw}g_2(y) = \log(1+y)-y+\frac{y^2}{2}$ (28)
と定める。ここで、
  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{lll}
np + nq
&=& n,\\
npy_n + nqz_n
...
...,-\sqrt{\frac{p}{nq}}\right)
\ =\
\tilde{u}_n^2(y_n+z_n)
\end{array}\right.$ (29)
に注意すると、$J_1$, $J_2$
\begin{eqnarray*}J_1
&=&
-np\left(g_2(y_n)+y_n-\,\frac{y_n^2}{2}\right)
-nq\l...
...g_1(z_n)+z_n)
\\ &=&
-npy_ng_1(y_n)-nqz_ng_1(z_n)-\tilde{u}_n^2\end{eqnarray*}
と変形できるから、
  $\displaystyle
J_1+J_2 = - \frac{\tilde{u}_n^2}{2}+npg_3(y_n)+nqg_3(z_n)$ (30)
となる。ここで、$g_3$
  $\displaystyle
g_3(y) = -g_2(y) - yg_1(y)$ (31)
とした。

$n\rightarrow\infty$ のとき、 $\tilde{u}_n\rightarrow u$, $y_n,z_n\rightarrow 0$ で、 この $npg_3(y_n)$, $nqg_3(z_n)$ の極限は $g_3(0)=0$ より 不定形となるが、

\begin{eqnarray*}g_3'(y)
&=&
-g_2'(y)-g_1(y)-yg_1'(y)
\\ &=&
-\left(\frac{1...
...)
&=&
-g_1'(y)
\ =\
-\,\frac{1}{1+y}+1
\ =\
\frac{y}{1+y}\end{eqnarray*}
で、$g_3'(0)=0$, $g_3''(0)=0$ なので、ロピタルの定理より、
\begin{eqnarray*}\lim_{n\rightarrow \infty}{npg_3(y_n)}
&=&
\lim_{n\rightarrow...
...^2q
\ =\
0,\\
\lim_{n\rightarrow \infty}{nqg_3(z_n)}
&=&
0\end{eqnarray*}
となるので、(30) より、
  $\displaystyle
\lim_{n\rightarrow \infty}{(J_1+J_2)} = - \frac{u^2}{2},
\hspace{1zw}
\lim_{n\rightarrow \infty}{J_3} = 0$ (32)
がわかる。また、
$\displaystyle \begin{array}{ll}
k &= np+\tilde{u}_n\sqrt{npq} = np(1+y_n) \rig...
...,\\
n-k &= nq-\tilde{u}_n\sqrt{npq} = nq(1+z_n) \rightarrow\infty
\end{array}$
なので、
  $\displaystyle
\lim_{n\rightarrow \infty}\frac{S(n)}{S(k)S(n-k)}=1$ (33)
となり、結局これらを統合すれば、
  $\displaystyle
\lim_{n\rightarrow \infty}{f^{(0)}_n(u)}
= \lim_{n\rightarrow \...
...t _{k=\mu_n+\tilde{u}_n\sigma_n}}
= \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\,e^{-u^2/2} = f_0(u)$ (34)
が示されたことになる。

そしてこれが [1] のあいまいな点の修正にもなっている。

$f^{(1)}_n(u)$, $f^{(2)}_n(u)$ の極限についても見ておく。 まずは $1<\beta_n\leq \alpha_n\leq n-1$ の保証を与えておく。 $\alpha_n=\lfloor\mu_n+t\sigma_n\rfloor$ より

$\displaystyle \alpha_n
\leq\mu_n+t\sigma_n
=np+t\sqrt{npq}
=np\left(1+t\sqrt{\frac{q}{np}}\right)
$
なので、$0<p\leq 1/2$ より $n$
  $\displaystyle
n\geq\frac{1}{1-\sqrt{p}},
\hspace{1zw}n\geq\frac{t^2q}{(1-\sqrt{p})^2},
\hspace{1zw}n\geq\frac{4t^2q}{p},
\hspace{1zw}n\geq\frac{6}{p} $ (35)
を満たすよう大きくとると、(35) の 1 つ目の 不等式から $n-1\geq n\sqrt{p}$ が得られ、2 つ目から
$\displaystyle 1+t\sqrt{\frac{q}{np}}
\leq 1+t\sqrt{\frac{q(1-\sqrt{p})^2}{pt^2q...
...{1-\sqrt{p}}{\sqrt{p}}
\leq 1+\frac{1-\sqrt{p}}{\sqrt{p}} = \frac{1}{\sqrt{p}}
$
が得られるので、よって、
$\displaystyle \alpha_n
=np\left(1+t\sqrt{\frac{q}{np}}\right)
\leq \frac{np}{\sqrt{p}}
=n\sqrt{p}
\leq n-1
$
となる。これで $\beta_n\leq \alpha_n\leq n-1$ が得られる。 また、
$\displaystyle \alpha_n>\mu_n+t\sigma_n-1=np\left(1+t\sqrt{\frac{q}{np}}\right)-1
$
であり、(35) の 3 つ目の不等式より
$\displaystyle \left\vert t\sqrt{\frac{q}{np}}\right\vert
\leq\left\vert\frac{t}{\sqrt{4t^2}}\right\vert=\frac{1}{2}
$
となるが、4 つ目の不等式より $np/2\geq 3$ だから、
$\displaystyle \alpha_n>np\left(1-\frac{1}{2}\right)-1\geq 3-1=2,
\hspace{1zw}\beta_n\geq \alpha_n-1> 1
$
となり、よって (35) を満たす $n$ に対しては、 $1<\beta_n\leq \alpha_n\leq n-1$ が保証されることになる。

(11), (19), (20) より $\mu_n+\alpha_n\sigma_n=\tilde{u}_n(t)$ であり、 よって

$\displaystyle \frac{\alpha_n+1-\mu_n}{\sigma_n} = \tilde{u}_n(t)+\frac{1}{\sigma_n}>t
$
となり、よって (20) より $(\alpha_n+1-\mu_n)/\sigma_n \rightarrow t+0$ となる。 また、
$\displaystyle \frac{1-\mu_n}{\sigma_n}=\frac{1}{\sqrt{npq}} -\sqrt{\frac{np}{q}}
\rightarrow -\infty
$
なので、よって
$\displaystyle \chi_{[(1-\mu_n)/\sigma_n,(\alpha_n+1-\mu_n)/\sigma_n)}(u)
\rightarrow \chi_{(-\infty,t]}(u)
$
となる。$\beta_n$ に関しては、(11) より
$\displaystyle \mu_n+t\sigma_n-1\leq \beta_n < \mu_n+t\sigma_n\leq \beta_n+1
$
なので、
$\displaystyle t\leq \frac{\beta_n+1-\mu_n}{\sigma_n}<t+\frac{1}{\sigma_n}
$
となり、よってこちらも
$\displaystyle \chi_{[(1-\mu_n)/\sigma_n,(\beta_n+1-\mu_n)/\sigma_n)}(u)
\rightarrow \chi_{(-\infty,t]}(u)
$
となることがわかる。よって、 $f^{(1)}_n(u),f^{(2)}_n(u)$ の極限は
  $\displaystyle
f^{(1)}_n(u),f^{(2)}_n(u)\rightarrow f_0(u)\chi_{(-\infty,t]}(u)$ (36)
となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-09-09