7 複素微分可能性との関係
複素関数 は、複素数 から複素数 への
関数であり、 と は 1 対 1 に対応するので、
の実数値関数である , は の 2 変数関数と見ることもできる。
今、 の関数を の関数と見たものには をつけて
書くことにすると、
となる。
良く知られているように、複素関数では「正則性」が非常に重要である。
が領域 上で「正則」であるとは、
内の各 で が「複素微分可能」であることを意味する。
「複素微分可能」や「極限」、「(複素) 連続性」の定義は以下の通り。
- 極限: 複素関数の「極限」
は、2 変数関数の極限
(20)
により定める。これは、
とすると
であることと同値となる。
- 連続性: が で「(複素) 連続」であるとは、
の周辺で が定義され、
となることと定める。これは上の極限の定義により、
と が
ともに で連続であることと同値になる。
- 複素微分可能性: が で「複素微分可能」であるとは、
(21)
の極限が存在することと定義し、この極限を とする。
この複素微分可能性を、, に関する条件に
書き直すのが本節の目的である。
,
,
とし、
とする。このとき、複素微分可能性 (21) は (20) より
を意味することになる。これはさらに、
と書き換えることができ、
は、
となるものである。(22) を実部と虚部に分離すると、
と変形できる。ここで、
に対し、
なので、(23), (24) は、
, が で全微分可能であることを示している。
さらに、(23), (24) より、
(25)
が成り立つ。この
に関する関係式を、
「コーシー・リーマンの関係式」という。
以上により
が で複素微分可能であれば、
は で全微分可能で、
コーシー・リーマンの関係式が成り立つ
ということがわかった。
実はこの逆も成り立つ。
定理 3
次の 2 つは同値。
- は で複素微分可能。
-
は で全微分可能で、
コーシー・リーマンの関係式を満たす。
「1. ならば 2.」は上で示したので、以下に「2. ならば 1.」を示す。
2. を仮定し、
, を (25) のように取ると、
, の全微分可能性は、
と書ける。このとき、
は、
となり、よって、
となるが、
であり、よって
のときに
となり極限が存在することになる。
これで の での複素微分可能性が示されたことになり、
よって定理 3 が証明されたことになる。
工学向けの複素関数論の本では、
全微分可能性との同値性まで細かく書いてあることは多くはなく、
むしろ全微分可能性の十分条件である , の
偏導関数の連続性を仮定した上で、
コーシー・リーマンのみが複素微分可能性の同値な条件である、
としているものもある (例えば [10],[11])。
竹野茂治@新潟工科大学
2023-06-19