7 複素微分可能性との関係

複素関数 $w=f(z)$ は、複素数 $z=x+iy$ から複素数 $w=u+iv$ への 関数であり、$x+iy$$(x,y)$ は 1 対 1 に対応するので、 $z=x+iy$ の実数値関数である $u=u(x+iy)$, $v=v(x+iy)$$(x,y)$ の 2 変数関数と見ることもできる。 今、$z=x+iy$ の関数を $(x,y)$ の関数と見たものには $\hat{}$ をつけて 書くことにすると、
$\displaystyle f(z) = f(x+iy) = \hat{f}(x,y)
= u(x+iy) + iv(x+iy)
= \hat{u}(x,y) + i\hat{v}(x,y)
$
となる。

良く知られているように、複素関数では「正則性」が非常に重要である。 $f(z)$ が領域 $D$ 上で「正則」であるとは、 $D$ 内の各 $z$$f$ が「複素微分可能」であることを意味する。 「複素微分可能」や「極限」、「(複素) 連続性」の定義は以下の通り。

この複素微分可能性を、$\hat{u}$, $\hat{v}$ に関する条件に 書き直すのが本節の目的である。

$z_0=a+ib$, $\Delta z = \Delta x + i\Delta y$, $f'(z_0)=\alpha+i\beta$ とし、

\begin{eqnarray*}\Delta f
&=&
f(z_0+\Delta z)-f(z_0)
= \Delta u + i\Delta v,
...
...)
= \Delta\hat{v}
= \hat{v}(a+\Delta x,b+\Delta y)-\hat{v}(a,b)\end{eqnarray*}
とする。このとき、複素微分可能性 (21) は (20) より
$\displaystyle \lim_{(\Delta x,\Delta y)\rightarrow (0,0)}\frac{\Delta\hat{u}+i\Delta\hat{v}}{\Delta x+i\Delta y}
=\alpha+i\beta
$
を意味することになる。これはさらに、
$\displaystyle {\Delta\hat{u}+i\Delta\hat{v}
\ =\
(\alpha+i\beta)(\Delta x+i\Delta y)
+\hat{\varepsilon }(\Delta x,\Delta y)(\Delta x+i\Delta y)}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle (\alpha+i\beta)(\Delta x+i\Delta y)
+(\hat{\eta}(\Delta x,\Delta y)+i\hat{\xi}(\Delta x,\Delta y))
(\Delta x+i\Delta y)$(22)
と書き換えることができ、 $\hat{\varepsilon }(h,k)=\hat{\eta}(h,k)+i\hat{\xi}(h,k)$ は、
$\displaystyle \lim_{(h,k)\rightarrow (0,0)}{\hat{\eta}(h,k)}=\hat{\eta}(0,0)=0,
\hspace{1zw}\lim_{(h,k)\rightarrow (0,0)}{\hat{\xi}(h,k)}=\hat{\xi}(0,0)=0
$
となるものである。(22) を実部と虚部に分離すると、
$\displaystyle \Delta\hat{u}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \alpha\Delta x - \beta\Delta y + \hat{\eta}(\Delta x,\Delta y)\Delta x
-\hat{\xi}(\Delta x,\Delta y)\Delta y,$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \alpha\Delta x - \beta\Delta y
+\Delta r\left(\frac{\Delta x}{\De...
...,\Delta y)
\,-\,\frac{\Delta y}{\Delta r}\,\hat{\xi}(\Delta x,\Delta y)\right),$(23)
$\displaystyle \Delta\hat{v}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \alpha\Delta y + \beta\Delta x + \hat{\eta}(\Delta x,\Delta y)\Delta y
+\hat{\xi}(\Delta x,\Delta y)\Delta x$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \alpha\Delta y + \beta\Delta x
+\Delta r\left(\frac{\Delta y}{\De...
...x,\Delta y)
\,+\,\frac{\Delta x}{\Delta r}\,\hat{\xi}(\Delta x,\Delta y)\right)$(24)
    $\displaystyle \left(\Delta r = \sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2}\right)$ 
と変形できる。ここで、 $(\Delta x,\Delta y)\rightarrow (0,0)$ に対し、
\begin{eqnarray*}\left\vert\frac{\Delta x}{\Delta r}\,\hat{\eta}(\Delta x,\Delta...
...lta y)\vert+\vert\hat{\xi}(\Delta x,\Delta y)\vert
\rightarrow 0\end{eqnarray*}
なので、(23), (24) は、 $\hat{u}$, $\hat{v}$$(a,b)$ で全微分可能であることを示している。 さらに、(23), (24) より、
  $\displaystyle
\alpha = \hat{u}_x(a,b) = \hat{v}_y(a,b),
\hspace{1zw}\beta = -\hat{u}_y(a,b) = \hat{v}_x(a,b)$ (25)
が成り立つ。この $\hat{u},\hat{v}$ に関する関係式を、 「コーシー・リーマンの関係式」という。

以上により

$f(z)$$z_0=a+ib$ で複素微分可能であれば、 $\hat{u}(x,y), \hat{v}(x,y)$$(a,b)$ で全微分可能で、 コーシー・リーマンの関係式が成り立つ
ということがわかった。 実はこの逆も成り立つ。


定理 3

次の 2 つは同値。
  1. $f(z)$$z_0=a+ib$ で複素微分可能。
  2. $\hat{u}(x,y), \hat{v}(x,y)$$(a,b)$ で全微分可能で、 コーシー・リーマンの関係式を満たす。
「1. ならば 2.」は上で示したので、以下に「2. ならば 1.」を示す。 2. を仮定し、 $\alpha$, $\beta$ を (25) のように取ると、 $\hat{u}$, $\hat{v}$ の全微分可能性は、
\begin{eqnarray*}\Delta\hat{u}
&=&
\alpha\Delta x-\beta\Delta y+\Delta r\hat{\...
... \\
&& \left(\Delta r = \sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2}\right)\end{eqnarray*}
と書ける。このとき、 $\Delta\hat{f}=\Delta\hat{u}+i\Delta\hat{v}$ は、
\begin{eqnarray*}\Delta\hat{f}
&=&
\Delta\hat{u}+i\Delta\hat{v}
= (\alpha+i\b...
...elta x+i\Delta y}\,
(\hat{\varepsilon }_1+i\hat{\varepsilon }_2)\end{eqnarray*}
となり、よって、
$\displaystyle \frac{\Delta\hat{f}}{\Delta z}
= \alpha+i\beta + \frac{\Delta r}{...
...t{\varepsilon }_1(\Delta x,\Delta y)+i\hat{\varepsilon }_2(\Delta x,\Delta y))
$
となるが、
$\displaystyle \left\vert\frac{\Delta r}{\Delta z}\right\vert
=
\frac{\vert\Delta z\vert}{\vert\Delta z\vert} \ =\ 1
$
であり、よって $(\Delta x,\Delta y)\rightarrow (0,0)$ のときに
$\displaystyle \lim_{(\Delta x,\Delta y)\rightarrow (0,0)}\frac{\Delta\hat{f}}{\Delta z}
=\alpha+i\beta
$
となり極限が存在することになる。 これで $f$$z_0$ での複素微分可能性が示されたことになり、 よって定理 3 が証明されたことになる。

工学向けの複素関数論の本では、 全微分可能性との同値性まで細かく書いてあることは多くはなく、 むしろ全微分可能性の十分条件である $\hat{u}$,$\hat{v}$ の 偏導関数の連続性を仮定した上で、 コーシー・リーマンのみが複素微分可能性の同値な条件である、 としているものもある (例えば [10],[11])。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-06-19