5 全微分可能性の十分条件

(16), (17) による 全微分可能性の定義は、具体的な関数に対してそれが成り立つことを 検証するのはあまり容易ではない。 本節では、それに代わって良く用いられる、 全微分可能性の十分条件をひとつ紹介する。


定理 1

$f(x,y)$$(a,b)$ の近くで $x$, $y$ に関して偏微分可能で、 $f_x(x,y)$$(a,b)$ で連続ならば、$f(x,y)$$(a,b)$ で 全微分可能。
この命題は、「$f_x(x,y)$ の連続性」を「$f_y(x,y)$ の連続性」に 変えても成り立つ。 むしろ対称に「$f_x(x,y)$$f_y(x,y)$ が連続ならば」という 条件で述べている本も少なくないが、実際には片方だけ連続ならばよい。 さらにこれは $n$ 変数にも一般化できる。

つまり、偏導関数すべてが連続である必要はなく、 ひとつ以外が連続であれば全微分可能となる。 多変数関数の本に載っている証明は、 通常 $n=2$ の場合のものであり、 $n\geq 3$ も同様にできる、とすることが多いが、 それだと $n\geq 3$ の場合の証明が少しわかりにくい。 よって本稿では $n=3$ の場合の証明を紹介し、 それにより $n=2$ の場合、および $n\geq 4$ の場合の証明を想像しやすくする。

3 変数関数 $f(x,y,z)$$(a,b,c)$ の近く、具体的にはある $\eta>0$ に 対して

$\displaystyle D=\{(x,y,z); \vert x-a\vert<\eta,\ \vert y-b\vert<\eta,\ \vert z-c\vert<\eta\}
$
$x,y,z$ について偏微分可能で、 $f_y(x,y,z)$, $f_z(x,y,z)$$(a,b,c)$ で 連続であるとする。今、
$\displaystyle \Delta f = f(a+\Delta x,b+\Delta y,c+\Delta z)-f(a,b,c)
\hspace{1zw}(\vert\Delta x\vert<\eta,\ \vert\Delta y\vert<\eta,\ \vert\Delta z\vert<\eta)
$
\begin{eqnarray*}\Delta f
&=&
I_1 + I_2 + I_3,\\
I_1
&=&
f(a+\Delta x,b+...
... y,c)-f(a+\Delta x,b,c),\\
I_3
&=&
f(a+\Delta x,b,c)-f(a,b,c)\end{eqnarray*}
のように分けて考える。 ここで、平均値の定理を使用する。 平均値の定理は、1 変数関数 $h(x)$$[a,b]$ で連続で、 $(a,b)$ で微分可能であれば、
$\displaystyle \frac{h(b)-h(a)}{b-a} = h'(c),\hspace{1zw}a<c<b
$
となる $c$ が少なくとも一つ存在する、という定理である。 ここで、$\theta$
$\displaystyle \theta = \frac{c-a}{b-a}
$
とすれば $0<\theta<1$ で、 $c=a+\theta(b-a)$ と書くことができる。 本稿ではこちらの形で使用する。 すなわち、$h(x)$$\vert x-a\vert<\delta$ で微分可能であれば、 そこでは連続でもあり、 $\vert\Delta x\vert<\delta$ に対し
$\displaystyle h(a+\Delta x)-h(a) = h'(a+\theta\Delta x)\Delta x
$
$0<\theta<1$ となる $\theta$ が少なくともひとつ存在する。

さて、$f(x,y,z)$$D$$z$ について偏微分可能だから、 $z$ については連続でもある。 よって $z$ について平均値の定理を用いることができ、

\begin{eqnarray*}I_1
&=&
f_z(a+\Delta x,b+\Delta y,c+\theta_1\Delta z)\Delta z...
..._4
&=&
f_z(a+\Delta x,b+\Delta y,c+\theta_1\Delta z)-f_z(a,b,c)\end{eqnarray*}
$0<\theta_1<1$ となる $\theta_1$ がとれる。 なお、この $\theta_1$$\Delta z$ だけでなく $\Delta x$, $\Delta y$ にも依存するが、その存在と $0<\theta_1<1$ は保証される。

同様に $I_2$ に対しても $y$ に関する平均値の定理を用いると、

\begin{eqnarray*}I_2
&=&
f_y(a+\Delta x,b+\theta_2\Delta y,c)\Delta y
\ =\
...
... \\
I_5
&=&
f_y(a+\Delta x,b+\theta_2\Delta y,c) - f_y(a,b,c)\end{eqnarray*}
$0<\theta_2<1$ となる $\theta_2$ がとれる。 この $\theta_2$$\Delta y$ だけでなく $\Delta x$ にも依存する。

また、$I_3$ に対しては、$x$ に関する $(a,b,c)$ での偏微分可能性により、

$\displaystyle I_3 = f_x(a,b,c)\Delta x + \varepsilon _1(\Delta x)\Delta x,
\hspace{1zw}\lim_{h\rightarrow 0}{\varepsilon _1(h)}=\varepsilon _1(0)=0
$
となる関数 $\varepsilon _1(h)$ がとれる。 これらにより、$\Delta f$ は、
\begin{eqnarray*}\Delta f
&=&
f_x(a,b,c)\Delta x + f_y(a,b,c)\Delta y + f_z(a,...
...pace{1zw}r
\ =\
\sqrt{(\Delta x)^2+(\Delta y)^2+(\Delta z)^2}\end{eqnarray*}
と書けることになる。あとは、 $(\Delta x,\Delta y,\Delta z)\rightarrow (0,0,0)$ のときに、 $I_6\rightarrow 0$ となることを示せばよい。

$\varepsilon _1(\Delta x)$ は当然 0 に収束し、$I_5$ も、$0<\theta_2<1$ より

$\displaystyle (a+\Delta x,b+\theta_2\Delta y,c)\rightarrow(a,b,c)
$
となることと $f_y$$(a,b,c)$ で連続であることから $I_5\rightarrow 0$ となる。$I_4$ も、$0<\theta_1<1$
$\displaystyle (a+\Delta x,b+\Delta y,c+\theta_1\Delta z)\rightarrow(a,b,c)
$
$f_z$$(a,b,c)$ での連続性から $I_4\rightarrow 0$ となる。 よって、
$\displaystyle \vert I_6\vert
=
\left\vert\frac{\Delta x}{r}\,\varepsilon _1(\De...
...\vert\varepsilon _1(\Delta x)\vert+\vert I_5\vert+\vert I_4\vert
\rightarrow 0
$
が言えるので、これで全微分可能であることが証明されたことになる。

この証明を見れば、$n$ 変数関数の場合も、$(n-1)$ 個の偏導関数の 連続性と、1 個の偏微分可能性があれば、 $\Delta f$$I_1,I_2,I_3$ と同じように分けることで 同じように証明できることがわかると思う。 当然上の $n=3$ の場合も、$f_x$$f_y$、 あるいは $f_x$$f_z$ が連続であっても構わない。

関数の連続性は比較的容易に判定できるので、 全微分可能性を検証するにはこの十分条件の方が用いられることが多い。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-06-19