3 等高線

前節のベクトル $\nabla f(x,y)$ は、ベクトル解析では $f$ の「勾配」 と呼ばれている。 本節では、$z=f(x,y)$ のグラフの等高線と勾配との関係を考える。

2 変数関数 $z=f(x,y)$ のグラフは、3 次元空間内の曲面となる。 その等高線は、

  $\displaystyle
f(x,y)=z_0\hspace{1zw}(\mbox{$z_0$\ は定数})$ (10)
で定義される曲線である。ただし、関数や $z_0$ の値によっては 曲線にはならない場合もある。

例えば、放物面 $y=x^2+y^2$ の等高線は、

  $\displaystyle
x^2+y^2 = z_0$ (11)
より、半径 $\sqrt{z_0}$ ($z_0>0$) の円となる。

等高線と勾配とは次の関係が成り立つ。


命題 2

等高線 (10) が滑らかな曲線である場合、 その上の各点 $(a,b)$ で、 ベクトル $\nabla f(a,b)$ と等高線は垂直になる。
これを以下に説明する。

等高線が滑らかな曲線である場合、$(x,y)=(a,b)$ の近くでは、 (10) の $(a,b)$ での接線が $y$ 軸と 平行ではない場合は

  $\displaystyle
y=h(x)$ (12)
の形に、そして (10) の $(a,b)$ での接線が $x$ 軸と 平行ではない場合は
  $\displaystyle
x=\hat{h}(y)$ (13)
の形に表すことができることが知られている。

例えば、(11) の等高線は、 点 $(0,\sqrt{z_0})$ を含む部分としては

$\displaystyle y=\sqrt{z_0-x^2}\hspace{1zw}(-\sqrt{z_0}<x<\sqrt{z_0})
$
と (12) の形に書けるし、 $(0,-\sqrt{z_0})$ を含む部分としては
$\displaystyle y=-\sqrt{z_0-x^2}\hspace{1zw}(-\sqrt{z_0}<x<\sqrt{z_0})
$
と (12) の形に書くことができるが、 接線が $y$ 軸に平行になる円の右端と左端の $(\sqrt{z_0},0)$, $(-\sqrt{z_0},0)$ の内部に含む円の部分を (12) の 形に書き表すことはできない。 一方で、これらの点を内部に含む円の部分は、 (13) の形になら表すことができて、 例えば、 $(\sqrt{z_0},0)$ の近くでは
$\displaystyle x=\sqrt{z_0-y^2}\hspace{1zw}(-\sqrt{z_0}<y<\sqrt{z_0})
$
$(-\sqrt{z_0},0)$ の近くでは
$\displaystyle x=-\sqrt{z_0-y^2}\hspace{1zw}(-\sqrt{z_0}<y<\sqrt{z_0})
$
のようになる。 このように、等高線が滑らかな曲線の場合は、 その上の各点 $(a,b)$ を含む部分は、 (12) か (13) のいずれかの形で書ける。

命題 2 の説明に戻る。 まずは (10) の上の点 $(a,b$) を 含む (10) の部分が (12) の形に 書ける場合を考える。 この場合は、

  $\displaystyle
b=h(a)$ (14)
であり、$(a,b)$ で等高線 (10) に接するベクトルは、 傾きが $h'(a)$ のベクトル、すなわち
  $\displaystyle
\overrightarrow{v_1} = (1,h'(a))$ (15)
となる。 命題 2 を示すには、この $\overrightarrow{v_1}$$\nabla f(a,b)$ が 垂直になることを示せばよい。 今、(12) は、(10) を式変形したものなので、 $(x,y)$ が (12) を満たせば (10) を満たし、 よって $a$ の近くのすべての $x$ に対して
  $\displaystyle
f(x,h(x))=z_0$ (16)
が成立することになる。この式の両辺を $x$ で微分すれば、 合成関数の微分により
$\displaystyle \frac{\partial f}{\partial x}\,\frac{dx}{dx}+\frac{\partial f}{\partial y}\,\frac{dh}{dx}
=f_x(x,h(x))\cdot 1+f_y(x,h(x))h'(x) = 0
$
となるので、$x=a$ とすると (14) より
$\displaystyle f_x(a,h(a))+f_y(a,h(a))h'(a)
= f_x(a,b)+f_y(a,b)h'(a) = 0
$
となる。(15) より、この式は
  $\displaystyle
\nabla f(a,b)\mathop{・}\overrightarrow{v_1} = 0$ (17)
を意味するので、これで $\nabla f(a,b)\perp\overrightarrow{v_1}$ が示された ことになる。

次は、(12) ではなく、 代わりに (13) と書けた場合を考える。この場合

  $\displaystyle
a=\hat{h}(b)$ (18)
であり、
$\displaystyle \frac{dx}{dy} = \hat{h}'(y)
$
$x$$y$ に関する傾きを意味するので、 $(a,b)$$x=\hat{h}(y)$ に接するベクトルは
  $\displaystyle
\overrightarrow{v_2}=(\hat{h}'(b), 1)$ (19)
となる。$b$ の近くの任意の $y$ に対して、 (13) の $x$, $y$ は (10) を 満たすので、
  $\displaystyle
f(\hat{h}(y),y)=z_0$ (20)
が成り立つ。この式の両辺を $y$ で微分すると
$\displaystyle f_x(\hat{h}(y),y)\hat{h}'(y)+f_y(\hat{h}(y),y)=0
$
となり、$y=b$ とすると (18) より、
$\displaystyle f_x(\hat{h}(b),b)\hat{h}'(b)+f_y(\hat{h}(b),b)
=f_x(a,b)\hat{h}'(b)+f_y(a,b)
=\nabla f(a,b)\mathop{・}\overrightarrow{v_2}
=0
$
となり、よって $\nabla f(a,b)\perp \overrightarrow{v_2}$ が言える。

すなわち、(12), (13) いずれの場合も、 等高線に接するベクトルと $\nabla f$ とは垂直となり、 これで命題 2 が示されたことになる。

例えば $z=x^2+y^2$ の場合、

$\displaystyle \nabla f=(f_x,f_y) = (2x,2y)
$
となり、これは原点からその点までの位置ベクトルの 2 倍のベクトルで、 等高線 (11) の円に対して半径方向となるので、 円とは明らかに垂直になる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-04-24