5 拡大と平行移動による証明

公式 1, 2 は、いずれも元の関数の定数倍の形になっているが、 それは、教科書の証明を見ると指数法則からそれが得られることがわかる。 そしてそれは、指数関数の拡大と平行移動に関する性質から導くこともでき、 本節ではそれについて考えてみる。

$y = f(x) = a^x$ とすると、この関数のグラフを $x$ 方向に $-p$ 移動すると、 それは元のグラフを $y$ 方向に $a^p$ 倍したことに等しくなる (図 3)。すなわち、

  $\displaystyle
f(x+p) = a^{x+p}=a^xa^p=a^pf(x)$ (7)
が成り立つ。

図 3: 平行移動と拡大
\includegraphics[width=6cm]{explog1-exp-tr.eps}
図 4: $x$ 方向の拡大
\includegraphics[width=6cm]{explog1-exp-sc.eps}
ここから、$y=f(x)$$x=p$ での傾き $f'(p)$ は、 そのままグラフを $x$ 方向に $-p$ 平行移動しても傾きは変わらず、 それが $f(x)$$x=0$ での $y$ 方向の $a^p$ 倍のグラフに一致するので、 $x=0$ での傾きの $a^p$ 倍に等しいことになる。 すなわち、 $f'(p)=a^pf'(0)$ が成り立ち、 よって一般に
  $\displaystyle
f'(x)=a^xf'(0)$ (8)
となる。

なお、この式はグラフによらなくても (7) を $x$ で 微分して $x=0$ とすることでも得られる。

あとは、$f'(0)$ だけ求めればよいのであるが、この値は $a$ によって 変動し、丁度 $f'(0)=1$ となるのが $a=e$ の場合であり、 それと (8) により公式 1 が成り立つことになる。

実際、(5) の左辺は $g(x)=e^x$$x=0$ での 微分係数 $g'(0)$ の定義と同じ式であり、 つまり (5) は $g'(0)=1$ を示しているが、 それが導かれる経路を考えると、実は元々 $e$ という定数の定義は、 この $g'(0)$ が 1 となるような底であると見ることもできる。 つまり、「$f(x)=a^x$ に対し $f'(0)=1$ となる $a$」が $e$ の定義で、 その定義と公式 1 は (8) によりほぼ直結することになる。

さて、一般の $a$ に対する公式 3 も、グラフの拡大の考え方で、 この公式 1 から導いてみよう。 上と同じく $f(x)=a^x$, $g(x)=e^x$ とする。 $y=f(x)$ のグラフを $x$ 方向に $k$ ($\neq 0$) 倍すると、その関数は

$\displaystyle y=f\left(\frac{x}{k}\right) = a^{x/k}=(a^{1/k})^x
$
となるが、もし $a^{1/k}=e$ となる $k$ があれば、 これは $y=g(x)=e^x$ に一致することになる。 この $k$ は、$a=e^k$ より $k=\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$e$}}a$ と求まり、 そしてこの $k$ に対して $f(x/k)=g(x)$ となる (図 4)。

$y=f(x)$ $(x,y)=(p,f(p))$ での傾き $f'(p)$ は、 そのグラフを $x$ 方向に $k$ 倍した $y=f(x/k)=g(x)$ のグラフでは、 $(x,y)=(kp,f(p))=(kp,g(kp))$ での傾きに対応するが、 その傾きは $f'(p)$$1/k$ 倍となる。 すなわち、 $f'(p)/k=g'(kp)$ となるので、公式 1 により

$\displaystyle f'(p) = kg'(kp) = ke^{kp} = (e^k)^pk = a^p\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$e$}}a
$
となり、これで公式 3 が得られたことになる。 なお、この議論は $k<0$ の場合も成立することに注意せよ。

ちなみに、(4) の左辺も、 $\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$e$}}x$$x=1$ での微分係数を意味していて、 そして対数関数の導関数が $1/x$ の定数倍であることも、 指数関数の場合と同様に得られる。 $y=h(x)=\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$a$}}x$ とすると、 このグラフを $y$ 方向に $-h(p)$ 下げると、 それは元のグラフの $x$ 方向の $p$ 倍に対応する。

$\displaystyle h(x)-h(p) = \log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$a$}}x-\log_{\raise...
...=\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$a$}}\frac{x}{p}
=h\left(\frac{x}{p}\right)
$
よって、$x=p$ での $y=h(x)$ の傾き $h'(p)$ は、 $x=1$ での傾き $h'(1)$$1/p$ 倍となる。 すなわち $h'(p)=h'(1)/p$ より
$\displaystyle h'(x)=\frac{h'(1)}{x}
$
となる。この $h'(1)$ が 1 となるのが $a=e$ のときであり、 一般には $h'(1)=\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$a$}}e=1/\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$e$}}a$ となるが、 それも指数関数の場合と同様に示される。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-11-01