1 はじめに

講義では、逆三角関数について基本的なことを紹介したが、 講義で取り上げなかった性質を本稿でいくつか紹介する。

証明:
$-1\leq y\leq 1$ に対し $\alpha=\cos^{-1}y$, $\beta=\sin^{-1}y$ と すると、 $\cos\alpha = y$, $0\leq\alpha\leq \pi$, $\sin\beta = y$, $-\pi/2\leq\beta\leq\pi/2$ なので、
$\displaystyle y = \cos\alpha = \sin\left(\frac{\pi}{2}-\alpha\right)=\sin\beta
$
となり、 $0\leq\alpha\leq \pi$ より $-\pi/2\leq\pi/2-\alpha\leq\pi/2$ だから $\pi/2-\alpha=\beta$ となる。 よって $\pi/2-\cos^{-1}y=\sin^{-1}y$ (証明おわり)
証明からもわかるが、これは、ほぼ $\sin(\pi/2-\theta)=\cos\theta$ という 性質を逆三角関数の言葉で表したものである。

また、これはグラフからも容易にわかる。 それは、 $\theta = \cos^{-1}y$ のグラフは、 $\theta = \sin^{-1} y$ のグラフを上下反転させて、 $\pi/2$ だけ上にあげたグラフとなっているからである。

これは、 $\theta = \sin^{-1} y$, $\theta=\tan^{-1}y$ のグラフが 原点対称になっていることからわかる。 だから、負の $y$ に対するこれらの値は、例えば
$\displaystyle \sin^{-1}\left(-\frac{\sqrt{3}}{2}\right)
= - \sin^{-1}\frac{\sqrt{3}}{2}
= -\frac{\pi}{3}
$
のように求めることもできる。

一方、 $y = \cos\theta$ は偶関数、 すなわち $y$ 軸に関してグラフが対称だが、 $\theta = \cos^{-1}y$ は偶関数でも奇関数でもない。

証明:
$0\leq y\leq 1$ に対し $\theta=\sin^{-1}\sqrt{1-y^2}$ とすると、 $\sqrt{1-y^2}\geq 0$ より $0\leq\theta\leq \pi/2$ で、
$\displaystyle \sin\theta=\sqrt{1-y^2},
\hspace{1zw}
y^2=1-\sin^2\theta=\cos^2\theta
$
となり、$y\geq 0$, $\cos\theta\geq 0$ より $y = \cos\theta$ となるから、 $0\leq\theta\leq \pi/2$ より $\theta = \cos^{-1}y$ となる。 後者も同様。(証明おわり)
これは、証明からもわかるが、ほぼ $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ を 逆三角関数の言葉で表したものである。

証明:
$y\geq 0$ に対し $\theta=\cos^{-1}(1/\sqrt{1+y^2})$ とすると、 $\cos\theta=1/\sqrt{1+y^2}>0$, $0\leq\theta<\pi/2$ となる。よって、
$\displaystyle \cos\theta=\frac{1}{\sqrt{1+y^2}},
\hspace{1zw}y^2=\frac{1}{\cos^2\theta}-1 = \tan^2\theta
$
となり、$y\geq 0$, $\tan\theta\geq 0$ より $y=\tan\theta$, よって $\theta=\tan^{-1}y$ となる。
(証明おわり)
これは、 $\cos^2\theta=1/(1+\tan^2\theta)$ を逆三角関数で表現したもの。 これらもひとつ前のものとほぼ同様で、証明は省略するが、それぞれ、
$\displaystyle \tan^2\theta=\frac{1-\cos^2\theta}{\cos^2\theta}\,,\hspace{1zw}
\...
...-\sin^2\theta}\,,\hspace{1zw}
\sin^2\theta=\frac{\tan^2\theta}{1+\tan^2\theta}
$
を逆三角関数で表現したものである。

証明:
$y>0$ に対し $\theta=\tan^{-1}(1/y)$ とすると、 $1/y = \tan\theta$, $0<\theta<\pi/2$ となる。 ここで、
$\displaystyle \tan\left(\frac{\pi}{2}-\theta\right)
=\frac{\sin(\pi/2-\theta)}{\cos(\pi/2-\theta)}
=\frac{\cos\theta}{\sin\theta}
=\frac{1}{\tan\theta} = y
$
となるので、 $0<\pi/2-\theta<\pi/2$ より
$\displaystyle \tan^{-1}y=\frac{\pi}{2}-\theta = \frac{\pi}{2}-\tan^{-1}\frac{1}{y}
$
となる。

一方、$y<0$ に対し $\theta=\tan^{-1}(1/y)$ とすると、 $-\pi/2<\theta<0$ なので、
$\displaystyle y = \tan\left(\frac{\pi}{2}-\theta\right)
= \tan\left(-\frac{\pi}{2}-\theta\right),
\hspace{1zw}-\frac{\pi}{2}<-\frac{\pi}{2}-\theta<0
$
となり、よって
$\displaystyle \tan^{-1}y = -\,\frac{\pi}{2}-\theta=-\,\frac{\pi}{2}-\tan^{-1}\frac{1}{y}
$
となる。(証明おわり)
これらも、ほぼ $\tan(\pi/2-\theta)=1/\tan\theta$ を逆三角関数に 読み替えたもの。

次は加法定理から得られるものを紹介する。

証明:
$0\leq y\leq 1$ に対し $\theta = \cos^{-1}y$ とすると $y = \cos\theta$, $0\leq\theta\leq \pi/2$ で、 $\cos2\theta=2\cos^2\theta-1=2y^2-1$ となるが、 $0\leq 2\theta\leq\pi$, $-1\leq 2y^2-1\leq 1$ なので、 $2\theta = \cos^{-1}(2y^2-1)$ となる。

後者も同様。(証明おわり)
これらは、倍角の公式 $\cos2\theta=2\cos^2\theta-1=1-2\sin^2\theta$ を 逆三角関数に読み替えたもの。

証明:
まず $4y^3-3y$ $1/2\leq y\leq 1$ では $-1$ から $1$ に 単調増加することに注意する ( $(4y^3-3y)'=3(4y^2-1)$ から容易にわかる)。 よって、 $\theta = \cos^{-1}y$ とすると $\cos\theta=y$ で、 $0\leq\theta\leq\pi/3$ となる。 このとき、 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\sin\theta=4y^3-3y$ となり、 $0\leq3\theta\leq\pi$, $-1\leq 4y^3-3y\leq 1$ なので、 $3\theta=\cos^{-1}(4y^3-3y)$ となる。

後者も、$3y-4y^3$ $-1/2\leq y\leq 1/2$ では $-1$ から 1 に 単調増加することからほぼ同様に示される。 (証明おわり)
これは、三倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$, $\sin3\theta=3\sin\theta-4\sin^3\theta$ を逆三角関数に読み替えたもの。

ちなみに、 $-1\leq 4y^3-3y\leq 1$ $-1\leq y\leq 1$ で成り立つが、 角の範囲が変わるので、例えば前者は、 $-1/2\leq y\leq 1/2$ の場合は、 $\pi/3\leq\theta\leq 2\pi/3$ より $\pi\leq 3\theta\leq 2\pi$ と なってしまうので、 $\cos 3\theta = \cos(2\pi-3\theta)$ から、 また $-1\leq y\leq -1/2$ の場合は、 $2\pi/3\leq\theta\leq \pi$ より $2\pi\leq 3\theta\leq 3\pi$ と なってしまうので、 $\cos 3\theta = \cos(3\theta-2\pi)$ から、

のように変わる。$\sin^{-1}$ の方も同様である。

$\tan$ は加法定理が $\tan$ だけで表されるので、 倍角の公式でなくても加法定理から直接次の公式が得られる。

これは、加法定理 $\tan(\alpha+\beta)=(\tan\alpha+\tan\beta)/
(1-\tan\alpha\tan\beta)$ から容易に得られる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-10-14