2 正規行列の対角化

$A\in M_{n,n}(\mbox{\boldmath$C$})$正規行列とは、 $AA^{\ast}=A^{\ast}A$ を 満たすこと、と定義する。

エルミート行列 ($A^{\ast}=A$)、 歪エルミート行列 ($A^{\ast}=-A$)、 ユニタリ行列 ( $A^{\ast}=A^{-1}$) は いずれも $AA^{\ast}=A^{\ast}A$ を満たし、正規行列となる。

また、「実 XX 行列」とは、「XX 行列」で成分がすべて実数のものを 指すことにする。例えば $A$実正規行列とは $A\in M_{n,n}(\mbox{\boldmath$R$})$ で、 $A\,{}^t\!{A}=\,{}^t\!{A}A$ を満たすことを意味し、 実エルミート行列は対称行列、実歪エルミート行列は交代行列、 実ユニタリ行列は直交行列を指すことになる。

[C] は、正規行列と、ユニタリ行列で対角化できる行列が同じもの であることを意味するが、それは [1] の定理 3.2 と 次の補題 2.1 から示される。

補題 2.1 $A\in M_{n,n}(\mbox{\boldmath$C$})$ が正規行列でかつ三角行列ならば、 $A$ は対角行列。

証明

$A$ が上三角行列の場合に示せば、下三角行列 $B$ に対しては、 $A=B^{\ast}$ は上三角行列でかつ正規行列となるので、 $A$ は対角行列となり、よって $B=A^{\ast}$ も対角行列となり、 下三角行列でも成り立つことになる。

よって、$A=[a_{i,j}]$ を、

  $\displaystyle
a_{i,j}=0\hspace{1zw}(i>j)
$ (1)
とする (上三角行列)。このとき、
$\displaystyle AA^{\ast}
= [a_{i,j}][\overline{a_{j,i}}]
= \left[\sum_{k=1}^n ...
...e{a_{j,i}}][a_{i,j}]
= \left[\sum_{k=1}^n \overline{a_{k,i}}\,a_{k,j}\right]
$
$(m,m)$ 成分を比較すると、
$\displaystyle \sum_{k=1}^n\vert a_{m,k}\vert^2=\sum_{k=1}^n\vert a_{k,m}\vert^2
$
となるが、(1) より、$1\leq m\leq n$ なる すべての $m$ に対し
  $\displaystyle
\sum_{k=m}^n\vert a_{m,k}\vert^2=\sum_{k=1}^m\vert a_{k,m}\vert^2
$ (2)
が成り立つことになる。 このとき、$j>i$ に対して $a_{i,j}=0$ となることを示す。

(2) の両辺を $m$ 倍して、 すべての $m$ に関して加え、$(m,k)=(i,j)$ とすると、 左辺は、

$\displaystyle \sum_{m=1}^n\sum_{k=m}^n m\vert a_{m,k}\vert^2
= \sum_{i=1}^n\sum_{j=i}^n i\vert a_{i,j}\vert^2
$
となる。一方右辺は、和の順序交換をして、$(m,k)=(j,i)$ とすると、
$\displaystyle \sum_{m=1}^n\sum_{k=1}^m m\vert a_{k,m}\vert^2
=\sum_{k=1}^n\sum_{m=k}^n m\vert a_{k,m}\vert^2
=\sum_{i=1}^n\sum_{j=i}^n j\vert a_{i,j}\vert^2
$
となるから、この 2 つが等しいので、
  $\displaystyle
\sum_{i=1}^n\sum_{j=i}^n (j-i)\vert a_{i,j}\vert^2=0
$ (3)
が成り立つ。この和の各項はすべて 0 以上なので、 それらがすべて 0 であることになり、 よって $j\geq i$ に対して $(j-i)\vert a_{i,j}\vert^2=0$ より $j>i$ に対して $a_{i,j}=0$ が得られ、よって $A$ は対角行列となる。


上の証明では、(2) を $m$ 倍して加えることを 行ったが、むしろ (2) から

$\displaystyle \sum_{k=m+1}^n\vert a_{m,k}\vert^2=\sum_{k=1}^{m-1}\vert a_{k,m}\vert^2
\hspace{1zw}(m=1,2,\ldots,n)
$
として、それを $m=1$ から順に見ていくことで
$\displaystyle a_{1,j}=0\ (j>1),
\hspace{1zw}a_{2,j}=0\ (j>2),
\hspace{1zw}a_{3,j}=0\ (j>3),
\ldots
$
のように示す方が普通だと思うが、 本稿の証明のような一度に示すやり方も可能である。

定理 2.2

証明

まず、あるユニタリ行列 $U\in M_{n,n}(\mbox{\boldmath$C$})$ により $B=U^{\ast}AU$ が 対角行列となったとすると、

$\displaystyle B^{\ast}=(U^{\ast}AU)^{\ast}=U^{\ast}A^{\ast}U
$
より、
$\displaystyle BB^{\ast}=(U^{\ast}AU)(U^{\ast}A^{\ast}U)=U^{\ast}AA^{\ast}U,
\hspace{1zw}B^{\ast}B=(U^{\ast}A^{\ast}U)(U^{\ast}AU)=U^{\ast}A^{\ast}AU
$
であり、$B$ は対角行列なので、 $BB^{\ast}=B^{\ast}B$ だから、
$\displaystyle U^{\ast}AA^{\ast}U=U^{\ast}A^{\ast}AU
$
より $AA^{\ast}=A^{\ast}A$ となって、よって $A$ は正規行列となる。

逆に $A$ が正規行列、すなわち $AA^{\ast}=A^{\ast}A$ が成り立つとする。 [1] の定理 3.2 より、$B=U^{\ast}AU$ が上三角行列となるような ユニタリ行列 $U$ が存在する。このとき、$B$ は、

$\displaystyle BB^{\ast}=U^{\ast}AA^{\ast}U=U^{\ast}A^{\ast}AU=B^{\ast}B
$
を満たし、よって $B$ は正規行列でかつ上三角行列となり、 補題 2.1 より $B$ は対角行列となるので、 よって $A$ はユニタリ行列で対角化できたことになる。


竹野茂治@新潟工科大学
2024-04-03