8 おわりに

帰納的な行列式の定義から、行列式の主要な性質を帰納法で証明してみたが、 そのうちいくつかは、最初に
$\vert A\vert$ は、$A$$n^2$ 個の要素のうちの $n$ 個の要素の積 からなる $n!$ 個の項に $+$$-$ をつけたものの和となっていて、
という事実を証明しておけば (これの証明自体はさほど難しくはない2)、 そこから簡単に導かれるのであるが、 ここではあえて帰納法にこだわった証明を行った。

よって、あまり自然でもなく、必要以上に煩雑な議論になってしまっている ところもあるように感じる。

また最初に述べたように、 これはあくまで数学者としての証明に対する興味の結果であり、 学生の勉強に向くものではなく、実用性もほとんどないと思われる。 よってこれを見ても (ましてや勉強しても) 何かの役に立つ、 ということはまずないと思う。

しかし逆に言えば、数学者の問題意識はどこにあるのか、 つまり普通の人とは違ってこういうところが気になる、 むしろこういうところに興味がある、 あるいは普段こういう証明などを考えている、 ということを知ってもらうという点では意味があるのかもしれない3

竹野茂治@新潟工科大学
2006年12月8日