2 2 次の場合

まず $n=2$ の 2 次の正方行列の場合を考えてみる。

$\displaystyle A=\left[\begin{array}{cc}a&b\\ c&d\end{array}\right],
\hspace{1zw}
B=\left[\begin{array}{cc}x&y\\ z&w\end{array}\right]
$
とすると、
\begin{eqnarray*}AB
&=&
\left[\begin{array}{cc}a&b\\ c&d\end{array}\right]\l...
...left[\begin{array}{cc}ax+cy&bx+dy\\ az+cw&bz+dw\end{array}\right]\end{eqnarray*}
なので、$A$$B$ が可換であることは、
$\displaystyle bz$ $\textstyle =$ $\displaystyle cy$ (1)
$\displaystyle (a-d)y$ $\textstyle =$ $\displaystyle b(x-w)$ (2)
$\displaystyle (a-d)z$ $\textstyle =$ $\displaystyle c(x-w)$ (3)
が成り立つことと同値となる。 これを場合分けして考えていくが、本節の目標は、$B$$A$ の 1 次式
  $\displaystyle
B = pA + qE$ (4)
の形で表されるかどうかを示すことである。

  1. $b\neq 0$ かつ $a\neq d$ の場合

    この場合、(2) より

      $\displaystyle
y
=\frac{b}{a-d}\,(x-w)$ (5)
    となり、 よって (1), (5) より
      $\displaystyle
z
=\frac{c}{b}\,y
=\frac{c}{a-d}\,(x-w)$ (6)
    となり $y$, $z$$x$, $w$ で表せる。 そして (6) が (3) が 得られるので、 この場合は (5), (6) を 満たすことが $A$$B$ が可換であることと同値となる。

    そして、この場合 $B$ は、

    \begin{eqnarray*}B
&=&
\left[\begin{array}{cc}x&y\\ z&w\end{array}\right]
\ ...
...w}{a-d}\,(A-dE)
\ =\
\frac{x-w}{a-d}\,A + \frac{aw-dx}{a-d}\,E\end{eqnarray*}
    となって確かに $B$$A$ の 1 次式 (4) の 形になることがわかる。

  2. $b\neq 0$ かつ $a=d$ の場合

    この場合 (1), (2), (3) は

    $\displaystyle z$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{c}{b}\,y$ (7)
    $\displaystyle b(x-w)$ $\textstyle =$ $\displaystyle 0$ (8)
    $\displaystyle c(x-w)$ $\textstyle =$ $\displaystyle 0$ (9)
    となる。$b\neq 0$ なので、(8) より
      $\displaystyle
x=w$ (10)
    となり、(9) は自然に成り立つ。 よってこの場合は、 (7) と (10) が 可換の条件となる。 この場合、
    $\displaystyle A
= \left[\begin{array}{cc}a&b\\ c&a\end{array}\right]
= aE + \left[\begin{array}{cc}0&b\\ c&0\end{array}\right]
$
    であり、$B$ は (7), (10) より、
    \begin{eqnarray*}B
&=&
\left[\begin{array}{cc}x&y\\ \displaystyle \frac{c}{b}\...
...+\frac{y}{b}\,(A-aE)
\\ &=&
\frac{y}{b}\,A + \frac{bx-ay}{b}\,E\end{eqnarray*}
    なので、やはり (4) の形となる。

  3. $b=0$ かつ $a\neq d$ の場合

    この場合は (2) より

      $\displaystyle
y=0$ (11)
    となり、また (1) は両辺 0 になり、 (3) は
      $\displaystyle
z = \frac{c}{a-d}\,(x-w)$ (12)
    となるので、この (11), (12) が 可換の条件となる。この場合 $A$ は、
    $\displaystyle A = \left[\begin{array}{cc}a&0\\ c&d\end{array}\right]
$
    で、$B$ は、(11), (12) より
    \begin{eqnarray*}B
&=&
\left[\begin{array}{cc}x&0\\ \displaystyle \frac{c}{a-d...
...x-w}{a-d}\,(A-dE)
\ =\
\frac{x-w}{a-d}\,A+\frac{aw-dx}{a-d}\,E\end{eqnarray*}
    となり (4) の形となる。

  4. $b=0$ かつ $a=d$ の場合

    この場合、(1) より $cy=0$ となるが、 $c=0$ だと $b=0$, $a=d$ より $A=aE$ となって仮定に反する。 よって $c\neq 0$ で、

      $\displaystyle
y=0$ (13)
    となり、(2) は両辺 0 になり、 また (3) は $c\neq 0$ より
      $\displaystyle
x=w$ (14)
    となる。この (13), (14) が 可換の条件となる。この場合、
    $\displaystyle A
= \left[\begin{array}{cc}a&0\\ c&a\end{array}\right]
= aE + c\left[\begin{array}{cc}0&0\\ 1&0\end{array}\right]
$
    $c\neq 0$, (13), (14) より、
    \begin{eqnarray*}B
&=&
\left[\begin{array}{cc}x&0\\ z&x\end{array}\right]
\ =...
... + \frac{z}{c}(A-aE)
\\ &=&
\frac{z}{c}\,A + \frac{cx-az}{c}\,E\end{eqnarray*}
    となり (4) の形となる。

以上をまとめると、 $n=2$$A\neq kE$, $A\neq O$ の場合は、 確かに $A$, $B$ が可換になるのは $B$$A$ の 1 次式の場合である ことが示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-09