1 はじめに

授業のベクトルの問題で苦労している解答をいくつか見たので、 それに関して補足をしておく。

四角形 ABCD に対して、

    $\displaystyle \mbox{それが平行四辺形となる}$ (1)
    $\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{AB}}=\overrightarrow{\mathrm{DC}}$ (2)
    $\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{AD}}=\overrightarrow{\mathrm{BC}}$ (3)

の 3 つは同値になる。(1) と (2) が同値であること、 および (1) と (3) が同値であることは 図を考えれば自明であろう。

演習問題では、 (1) と「(2) かつ (3)」が同値、 としている解答もあったが、 それは、命題として間違ってはいないが、過剰である。 つまり、「(2) かつ (3)」は 「(2) だけ」と同値であり、 「(3) だけ」とも同値となる。

なお、「(2) ならば (3)」、 あるいは「(3) ならば (2)」は、 以下のように代数的に直接得ることもできる。

(2) が成立すると、 $\overrightarrow{\mathrm{AB}}=\overrightarrow{\mathrm{DC}}$ より、

$\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{AD}}
= \overrightarrow{\mathrm{AB}}+\ove...
...row{\mathrm{BD}}+\overrightarrow{\mathrm{DC}}
= \overrightarrow{\mathrm{BC}}
$

となる。
「(3) ならば (2)」も同様である。

さらに、(1) と、

  $\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{AB}}\mathrel{/\!/}\overrightarrow{\mathrm...
...e{0.5zw}\overrightarrow{\mathrm{AD}}\mathrel{/\!/}\overrightarrow{\mathrm{BC}}
$ (4)
が同値であるとして、それで解こうとしている答案もあった。 (4) は、ほぼ平行四辺形の定義なので 当然 (1) とは同値だが、 (4) を使うために数式にすると、 (2) よりも面倒になり (パラメータが増える)、 (2) を用いる方が易しい。

なお、「(2) と (4) が同値」であることは、 以下のようにして直接示すこともできる。 まず、「(2) ならば (4)」の方は、 「(2) ならば (3)」が得られているので、 (2) と (3) の両方が成立することになり、 当然 (4) が成立することになる。

次は「(4) ならば (2)」の方を考える。 ABCD は四角形なので、

  $\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{AB}}\neq\overrightarrow{0}
\mbox{ かつ }
...
...rrightarrow{\mathrm{AB}} \mbox{ と } \overrightarrow{\mathrm{AD}}\mbox{ は平行でない}
$ (5)
と仮定してよい。

(4) より、

  $\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{DC}}=k\overrightarrow{\mathrm{AB}},\hspace{1zw}\overrightarrow{\mathrm{BC}}=m\overrightarrow{\mathrm{AD}}
$ (6)
となるスカラー $k$, $m$ が存在する。よって、

$\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{AC}}=\overrightarrow{\mathrm{AD}}+\overri...
...tarrow{\mathrm{BC}}=\overrightarrow{\mathrm{AB}}+m\overrightarrow{\mathrm{AD}}
$

となるから、

$\displaystyle k\overrightarrow{\mathrm{AB}}+\overrightarrow{\mathrm{AD}} = \overrightarrow{\mathrm{AB}}+m\overrightarrow{\mathrm{AD}}
$

よって、
  $\displaystyle (k-1)\overrightarrow{\mathrm{AB}}=(m-1)\overrightarrow{\mathrm{AD}}
$ (7)
となる。もし、$k\neq 1$ なら、ここから

$\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{AB}}=\frac{m-1}{k-1}\overrightarrow{\mathrm{AD}}
$

となって、 $\overrightarrow{\mathrm{AB}}\mathrel{/\!/}\overrightarrow{\mathrm{AD}}$ ということになり、 (5) に反する。よって $k=1$ となる。 ついでに言えば、$k=1$ と (7) より $(m-1)\overrightarrow{\mathrm{AD}}=\overrightarrow{0}$ と なるので、(5) より $m=1$ も得られる。

よって、(6) より $\overrightarrow{\mathrm{DC}}=\overrightarrow{\mathrm{AB}}$ (および $\overrightarrow{\mathrm{BC}}=\overrightarrow{\mathrm{AD}}$) となり、 (2) (および (3) が得られることになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2021-07-16