2 単独保存則のリーマン問題の解とエントロピー条件

本稿ではしばらく $N=1$、すなわち単独の保存則方程式について考える。 $f(u)$ も通常の凸なものを考えることとし、 ある正の定数 $\delta$ に対して
\begin{displaymath}
f''(u)\geq \delta\end{displaymath} (3)

が成り立つとする。

非粘性の保存則方程式 (1) は、 良く知られているように衝撃波と呼ばれる不連続解

\begin{displaymath}
u(t,x)
=\left\{\begin{array}{ll}
u_1 & (x<st),\\
u_2 & (x>st)
\end{array}\right.\end{displaymath} (4)

を持つ。ここで、$s$ は、Rankine-Hugoniot 条件
\begin{displaymath}
f(u_2)-f(u_1)=s(u_2-u_1)
\end{displaymath}

を満たす必要があるが、さらに Lax のエントロピー条件
\begin{displaymath}
f'(u_1)>s>f'(u_2)
\end{displaymath}

をも満たさなければいけないので、ここから $u_1>u_2$ が自然に導かれる。

よってこれは、右 ($x$ 軸方向) に向かって下がる階段関数の初期値に対する 解であるが、 逆に右に向かって上がる階段関数の初期値に対する解は、膨張波と呼ばれる、 区分的に $C^2$ な、$t>0$ で連続な関数

\begin{displaymath}
u(t,x)
=\left\{\begin{array}{ll}
u_1 & (x<at),\ [.5zh]
...
...& (at\leq x\leq bt),\ [.5zh]
u_2 & (x>bt)
\end{array}\right.\end{displaymath} (5)

となる。 ここで $\hat{u}(\xi)$ は、
\begin{displaymath}
\hat{u}(\xi)=(f')^{-1}(\xi)
\end{displaymath}

である。 膨張波は、$x$ 方向に徐々に広がっていく関数であり、 $\hat{u}'(\xi)$ は (3) より
\begin{displaymath}
0<\hat{u}'(\xi)=\frac{1}{f''(\hat{u}(\xi))}\leq \frac{1}{\delta}
\end{displaymath}

と有界なので、この波の内部では
\begin{displaymath}
0<u_x
=\hat{u}'\left(\frac{x}{t}\right)\frac{1}{t}
\leq \frac{1}{\delta t}
\end{displaymath}

となり、$u_x$$1/t$ の速さで減衰する。 一方で、衝撃波ではもちろん $u_x=-\infty$ であるから、 (1) の解の $u_x$ を下からおさえることはできない。 よって、その近似解である (2) の解も $\varepsilon$ に一様に $u_x$ を下からおさえることはできないと思われる。

一般に、単独の保存則方程式 (1) は Oleinik のエントロピー条件

\begin{displaymath}
\frac{u(t,x+p)-u(t,x)}{p}\leq \frac{M}{t}\end{displaymath} (6)

($p$ は任意の正数、$M$ はある正数) を満たす解を持つ。 これは、おおまかに言って、解の $u_x$$1/t$ の速さで 「上から」おさえられることを意味する。

本稿では (6) にならい、$N=1$ の場合に (2) の近似解が、 $\varepsilon$ に関して一様に $u_x$ が上から $1/t$ の速さの評価を持つことを示し、 それを用いて $u$ の一様な減衰評価を求める。

なお、(2) は放物型方程式なので、 その解は $1/t$ より速く (例えば指数的に) 減衰することが期待される。 確かに (2) の解 $u$ はそのような評価も持つが、 上の考察によってもわかるようにそれは $\varepsilon$ に依存した評価であり、 $\varepsilon\rightarrow +0$ のときには保持されず、 $\varepsilon$ に一様には成り立たない。

つまり、見た目には速く減衰する近似解から、$\varepsilon$ に一様な 遅い減衰成分を取り出すことが目標となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月25日