もし分布が左右対称であれば、 も もその中心に一致することは、 3 節で説明した , の意味からすぐにわかる。
左右対称とは限らない分布で考えると、 は中央値であるから、 で左右に分けたときにその左右の部分の面積は同じであり、 その右側の一部分を切り離して、その右側の範囲を移動した分布を考えても の値は変化しない (図 5)。
一方、 の方は、図形の重心の 座標であるから、 そのような操作によって の位置は変化し、 一部分を右へ移動すれば重心も右へ移動するから、 の値も大きくなることになる。
例えば一定に増加するようなヒストグラム、 すなわち が傾きが正の直線の場合を考えてみる (図 6)。
この場合、度数は右に行くにつれて増えているので、 は、データ値の中央である よりも右にある。 式で表すこともでき、ある 2 次方程式の解になることがわかるが、 ここでは省略する。 もちろん、重心も よりも右にあるので、 は よりも大きいことがわかる。
一方、この図の より右の部分を、 面積を変えずに左右対称になるように変形しても、 の位置は変わらない (図 7)。
しかし、元の右上がりの直線図形と、この左右対称な図形では、 元の図形の方が移動した部分は の近くにあるので、 図形の重心は元の図形の方が左側にある。 左右対称な図形では重心は 上にあるので、 よって元の図形の重心は よりも左側にあることになるから、 結局、右上がりの直線の分布に対しては、以下の不等式が成り立つことになる。
(8)
この例と同じ考え方を用いれば、逆に直線とは限らない分布で
つまり、そのような左右対称な図よりも、 元の分布は の右側の部分 (の重心) が に近い方にある、 ということが言える。 おおざっぱに言えば、 の右と左では、 右の方が の近くにあり、 左の方が遠くにある、ということになる。
しかし、これは「右の分散が左の分散よりも小さい」ことを表すかというと、 必ずしもそうではない。 上の「遠い近い」はあくまで平均、図形でいえば重心のことを意味していて、 いわゆる「1 次モーメントの意味で」ということになるが、 分散とは「2 次モーメント量」であるからである。 1 次モーメントの大小と 2 次モーメントの大小とは一般には関係がない。
竹野茂治@新潟工科大学