4 2 変数関数の場合

では、2 変数関数の場合はどうだろうか。

2 変数でも、極大値 $f(a,b)$ よりも大きい値 $f(p,q)$ がある場合、 $(x,y)$ 平面上で $(a,b)$ から $(p,q)$ に向かう 任意の滑らかな道に沿って考えれば、 それに沿っては $f(x,y)$ の値は一旦下がってから上がらないといけないので、 やはりその折り返し点では関数のグラフの傾きは 0 になるのであるが、 それはこの道に沿う方向の傾きが 0 になるだけで、 $(x,y)$ 平面のどの方向にも傾きが 0 (そのような点が停留点) であることは意味せず、 よってそこからは 1 変数のような矛盾は得られない。

つまり、そのような折り返し点での別方向の傾きが 0 にならないように $f(x,y)$ を作れれば、それが問題 1 の反例となりうる。 そして実際に、2 変数関数の場合は、 そのような反例を構成することができることを以下に紹介する。

まず

\begin{displaymath}
h_1(y)=y^4-2y^2
\end{displaymath}

を考えると、
\begin{displaymath}
h_1'(y)=4y(y-1)(y+1)
\end{displaymath}

であるので、$h_1(y)$$y=-1,0,1$ でそれぞれ極となり、 $y=0$ で極大値 0、$y=\pm 1$ で極小値 $-1$ を取る。 これを用いると、$\alpha>\beta$ に対し、 $y=0$ で極大値 $\alpha$$y=\pm 1$ で極小値 $\beta$ を持つ 関数を作ることができ、例えば、
\begin{displaymath}
h_2(y)=h_2(y;\alpha,\beta)=(\alpha-\beta)h_1(y)+\alpha
\end{displaymath}

がそれに当たることが容易にわかる。

今、$h_3(x)$, $h_4(x)$ を、

を満たす滑らかな関数とし (例えば、 $h_3(x)=e^{-x^2}$, $h_4(x)=-e^{-x}$ など)、
\begin{displaymath}
f(x,y)=h_2(y;h_3(x),h_4(x))=(h_3(x)-h_4(x))h_1(y)+h_3(x)
\end{displaymath}

とすれば、これが問題 1 の反例となる。

$h_3(x)>0>h_4(x)$ なので、 すべての $x$ に対して、$y$ 方向には $f(x,y)$$y=0$ で極大 (極大値 $h_3(x)$) で、 $y=\pm 1$ で極小 (極小値 $h_4(x)$) となり、 それ以外では $y$ 方向の傾きは 0 とはならない。 また、$x$ 方向には、$y=0$ 上では $f(x,0)=h_3(x)$ だから $x=0$ でのみ傾きが 0 で、そこで極大となり、 $y=\pm 1$ 上では $f(x,\pm 1)=h_4(x)$ だから $x$ に関して単調増加なので 傾きが 0 となる点はない。

よって $f(x,y)$ の停留点は $(x,y)=(0,0)$ しかなく、 そこで極大となる。 しかし、例えば $(x,y)=(0,2)$ では、$h_3(x)>h_4(x)$ より

\begin{eqnarray*}f(0,2)
&=&
(h_3(0)-h_4(0))h_1(2)+h_3(0)
=8(h_3(0)-h_4(0))+h_3(0)\\
&>&
h_3(0)=f(0,0)\end{eqnarray*}


となるので、$f(0,0)$ は最大ではない。

なお、$f(0,0)$ が極大であることは、

\begin{eqnarray*}A &=& f_{xx}(0,0)=(h_3''(0)-h_4''(0))h_1(0)+h_3''(0)=h_3''(0)<0...
...\
C &=& f_{yy}(0,0)=(h_3(0)-h_4(0))h_1''(0)=-4(h_3(0)-h_4(0))<0\end{eqnarray*}


なので、 $B^2-AC=-h_3''(0)C<0$, $A=h_3''(0)<0$ となるので、 命題 1 から直接得ることもできる。

竹野茂治@新潟工科大学
2008年12月14日