1 はじめに

この講義の教科書[1]の式 (1.1)
  $\displaystyle
\lim_{x\rightarrow \pm\infty}{\left(1+\frac{1}{x}\right)^x} = e$ (1)
は、指数関数 $e^x$、対数関数 $\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$e$}}x$ の導関数を決定する大事な 極限であるが、教科書[1] ではその証明を省略しているので、 本稿ではそれを紹介する。証明の元になるのは、$e$ の定義
  $\displaystyle
e = \lim_{n\rightarrow \infty}{\left(1+\frac{1}{n}\right)^n}$ (2)
である。 なお、(2) は $n$ で書いてあるから この $n$ は自然数を意味し、 (1) は $x$ で書いてあるからこの $x$ は 実数を意味することに注意しよう。 つまり、(1) の極限は、 $x$ は整数以外の値も取りながらの極限を意味する。

また、(1) で「$\pm\infty$」となっているのは、

  $\displaystyle
\lim_{x\rightarrow \infty}{\left(1+\frac{1}{x}\right)^x} = e$ (3)
  $\displaystyle
\lim_{x\rightarrow -\infty}{\left(1+\frac{1}{x}\right)^x} = e$ (4)
の両方が成立することを意味する。よってこの両方を示す必要がある。

ちなみにこの (1) は、最終的には [1] p13 の 上にある

  $\displaystyle
\lim_{h\rightarrow 0}{(1+h)^{1/h}}=e$ (5)
を示すためのものである。もし (1)、すなわち (3) と (4) が言えれば、 (3) で $x=1/h$ ($h=1/x$) と すると $x\rightarrow\infty$ $h\rightarrow +0$ を意味し、よって
  $\displaystyle
\lim_{h\rightarrow +0}{(1+h)^{1/h}}=e$ (6)
が得られ、(4) で $x=1/h$ ($h=1/x$) と すると $x\rightarrow -\infty$ $h\rightarrow -0$ を意味し、よって
  $\displaystyle
\lim_{h\rightarrow -0}{(1+h)^{1/h}}=e$ (7)
が得られるので、よって (6), (7) の両方を合わせて (5) が得られることになる。

最初の定義 (2) で $h=1/n$ としても、それは 1/2,1/3,1/4,... というとびとびの $h$ の値に対してのみ $(1+h)^{1/h}$ の極限が $e$ になる、 ということしか言えたことにはならず、 (5) はおろか (6) にすらならない。 だから、(5) を示すためには、定義 (2) の $n$ を 実数 $x$ に拡張したもの (3)、および 負の無限大の方向の極限 (4) も同じ値になること、 すなわち (1) が必要になるのである。

竹野茂治@新潟工科大学
2021-11-08