7 回転行列の回転軸と回転角

最後に、3 次元回転行列の回転軸と回転角の取得について説明する。

3 次元の 1 次変換の変換行列 $A$ が直交行列で $\vert A\vert=1$ のとき、 この 1 次変換は回転変換$A$回転行列と呼ばれる。 それは、 $A=[\mbox{\boldmath$a$}\ \mbox{\boldmath$b$}\ \mbox{\boldmath$c$}]$ の 列ベクトル $\mbox{\boldmath$a$},\mbox{\boldmath$b$},\mbox{\boldmath$c$}$ は、 正規直交基底で、かつ軸方向の 基本ベクトル $\mbox{\boldmath$e$}_1,\mbox{\boldmath$e$}_2,\mbox{\boldmath$e$}_3$ と同じ手系、 すなわち鏡像反転がなく何回かの回転で $\mbox{\boldmath$a$},\mbox{\boldmath$b$},\mbox{\boldmath$c$}$ に 重なることから来ている。

通常 3 次元の回転変換は、$x$ 軸や $z$ 軸の回りの 3 回の回転 (オイラー角) の合成で表現されることが多いが (cf.[4])、 ここでは、その回転行列がある回転軸に対する 1 回の回転で表現されること、 およびその回転軸方向、回転角の取得方法について考える。

まず、前者であるが、まず回転行列は $\lambda=\vert A\vert=1$ の固有値を持ち、 それに対する実数成分の単位固有ベクトル $\mbox{\boldmath$p$}$ が取れる。

$\displaystyle A\mbox{\boldmath$p$}=\mbox{\boldmath$p$}
$
$\mbox{\boldmath$p$}$ に垂直な単位ベクトル $\mbox{\boldmath$q$}$ を 1 つ取り、 $\mbox{\boldmath$r$}=\mbox{\boldmath$p$}\times\mbox{\boldmath$q$}$ とすると、 $\mbox{\boldmath$p$},\mbox{\boldmath$q$},\mbox{\boldmath$r$}$ $\mbox{\boldmath$e$}_1,\mbox{\boldmath$e$}_2,\mbox{\boldmath$e$}_3$ と同じ手系の正規直交基底となる。 今、
$\displaystyle A\mbox{\boldmath$q$}=\mbox{\boldmath$q$}',
\hspace{1zw}A\mbox{\boldmath$r$}=\mbox{\boldmath$r$}'
$
とすると、$A$ は長さ、内積を保存するので、 $\mbox{\boldmath$q$}'$ $\mbox{\boldmath$r$}'$ は単位ベクトルで、 $\mbox{\boldmath$p$},\mbox{\boldmath$q$}',\mbox{\boldmath$r$}'$ は互いに垂直なベクトルとなる。 さらに、
$\displaystyle \mbox{\boldmath$q$}'\times\mbox{\boldmath$r$}'
=(A\mbox{\boldmath...
...dmath$q$}\times\mbox{\boldmath$r$})
=A\mbox{\boldmath$p$}
=\mbox{\boldmath$p$}
$
なので、 $\mbox{\boldmath$p$},\mbox{\boldmath$q$}',\mbox{\boldmath$r$}'$ $\mbox{\boldmath$e$}_1,\mbox{\boldmath$e$}_2,\mbox{\boldmath$e$}_3$ と同じ手系の正規直交基底となる。 これで、$A$ が、 $\mbox{\boldmath$p$}$ を回転軸とし、 $\mbox{\boldmath$p$}$ に 垂直な平面内の $\mbox{\boldmath$q$}$ から $\mbox{\boldmath$q$}'$ への回転を行う行列 であることが言えたことになる。

次に回転軸、回転角の取得だが、回転軸については固有値 1 の 単位固有ベクトル $\mbox{\boldmath$p$}$ を取ればよい。 回転軸 $\mbox{\boldmath$p$}$ に関する回転角 $\theta $ ( $0\leq\theta<2\pi$) については、 $\mbox{\boldmath$q$}$ $\mbox{\boldmath$q$}'$ の間の角 $\psi $ ( $0\leq\psi\leq\pi$) は $\psi=\theta$ かまたは $\psi=2\pi-\theta$ となるが、 $\psi $ は内積 $(\mbox{\boldmath$q$},\mbox{\boldmath$q$}')=\cos\psi$ で求められ、 $\theta $$\psi $ ( $0\leq\theta<\pi$) か $2\pi-\psi$ ( $\pi\leq\theta<2\pi$) かは、 内積 $(\mbox{\boldmath$r$},\mbox{\boldmath$q$}')$ の符号で確認できる (図 6)。

図 6: $\psi $$\theta $
\begin{figure}\begin{center}
%\par
\setlength{\unitlength}{0.18mm}
\begin{pi...
...{$\psi=2\pi-\theta$}
\put(210,-219){$O$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}
正なら $0<\theta<\pi$ より $\theta=\psi$ であり、 負なら $\pi<\theta<2\pi$ より $\theta=2\pi-\psi$ となる。 なお、後者の場合は、回転軸を $-\mbox{\boldmath$p$}$ として、 回転角を $\psi $ としてもよい。 これで回転角も計算できることになる。なお、$\psi $ $\mbox{\boldmath$r$}$ $\mbox{\boldmath$r$}'$ の間の角としても求められる。

例えば、

$\displaystyle A=\frac{1}{3}\left[\begin{array}{rrr}%
2 & 1 & -2\\
1 & 2 & 2\\
2 & -2 & 1
\end{array}\right]
$
は、各列ベクトルは長さが 1 で、互いに直交し、$\vert A\vert=1$ なので回転行列。
\begin{eqnarray*}\phi_A(\lambda)
&=&
\frac{1}{27}\left\vert\begin{array}{ccc}%...
...5\lambda-3)
\ =\
\frac{1}{3}(\lambda-1)(3\lambda^2-2\lambda+3)\end{eqnarray*}
より、固有値は $\lambda=1,(1\pm 2\sqrt{2}\,i)/3$ となる。 固有値 1 に対する固有ベクトルは、$E-A$ を行基本変形すると
$\displaystyle E-A
=\frac{1}{3}\left[\begin{array}{rrr}1&-1&2\\ -1&1&-2\\ -2&2&...
...]
\rightarrow
\left[\begin{array}{rrr}1&-1&0\\ 0&0&1\\ 0&0&0\end{array}\right]
$
なので、 $\mbox{\boldmath$p$}$
$\displaystyle \mbox{\boldmath$p$} = \frac{1}{\sqrt{2}}\left[\begin{array}{r}1\\ 1\\ 0\end{array}\right]
$
と取れる。これに垂直な単位ベクトルは
$\displaystyle \mbox{\boldmath$q$} = \frac{1}{\sqrt{2}}\left[\begin{array}{r}1\\ -1\\ 0\end{array}\right]
$
と取れ、 $\mbox{\boldmath$r$}$
$\displaystyle \mbox{\boldmath$r$}=\mbox{\boldmath$p$}\times\mbox{\boldmath$q$}=\left[\begin{array}{r}0\\ 0\\ -1\end{array}\right]
$
となる。
$\displaystyle \mbox{\boldmath$q$}' = A\mbox{\boldmath$q$} = \frac{1}{3\sqrt{2}}...
...\boldmath$r$} = \frac{1}{3}\left[\begin{array}{r}2\\ -2\\ -1\end{array}\right]
$
なので、
$\displaystyle (\mbox{\boldmath$q$},\mbox{\boldmath$q$}')=\frac{1}{3}=\cos\psi,
\hspace{1zw}(\mbox{\boldmath$r$},\mbox{\boldmath$q$}')=-\,\frac{4}{3\sqrt{2}}<0
$
より $\theta=2\pi-\psi=2\pi-\cos^{-1}(1/3)$ となる。 または、 $-\mbox{\boldmath$p$}$ の回りの $\cos^{-1}(1/3)$ 回転、 ということもできる。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-02-29