5 連立微分方程式

次は、線形の連立微分方程式を単独化する例として、連成振動を紹介する。

自然長が $L$ でバネ定数が $k$ のバネを $x=0$ の左の壁にとりつけ、 その右端に質量 $m$ のおもりをつける。 そのおもりを右に引いて離すと、まさつを無視すれば、 おもりの位置 $x=x(t)$ ($t$ は時刻) は左右の 単振動をする (図 3)。

図 3: バネの単振動
\begin{figure}\begin{center}
%\par
\setlength{\unitlength}{0.18mm}
\begin{pi...
...(90,-279){$0$}
\put(220,-279){$y+L$}
\end{picture}\par
\end{center}\end{figure}

$x(t)$ が満たす運動方程式は、フックの法則により、

$\displaystyle mx'' = -k(x-L)
$
となるので、バネの伸びを $y(t)=x(t)-L$ とすると、$y(t)$
  $\displaystyle
y'' = -\alpha^2 y,\hspace{1zw}\alpha = \sqrt{\frac{k}{m}}$ (8)
を満たすが、この微分方程式の解は良く知られているように、
  $\displaystyle
y = C_1\cos\alpha t+C_2\sin\alpha t
= C_3\sin(\alpha t+\beta)$ (9)
となる。

連成振動とは、このバネとおもりが複数連なっている振動現象を指す。 図 3 のおもりの右にさらにバネとおもり 1 組を つなげたものを考える。簡単のため、2 つのバネのバネ定数と自然長、 2 つのおもりの質量は同じものとする (図 4)。

図 4: 連成振動
\begin{figure}\begin{center}
%\par
\setlength{\unitlength}{0.15mm}
\begin{pi...
...0,-279){$y_1+L$}
\put(570,-279){$y_2+L$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

左のおもりの位置を $x_1(t)$, 右のおもりの位置を $x_2(t)$ とし、 左のバネの伸びを $y_1(t)=x_1(t)-L$, 右のバネの伸びを $y_2(t)=x_2(t)-x_1(t)-L$ とする。 このとき、$x_1$, $x_2$ が満たす運動方程式は、

$\displaystyle \left\{\begin{array}{ll}
m x_1'' &= -ky_1 + ky_2\\
m x_2'' &= -ky_2\end{array}\right.$
なので、$x_1=y_1+L$, $x_2=y_1+y_2+2L$ より,
$\displaystyle \left\{\begin{array}{ll}
y_1'' &= -\alpha^2y_1 + \alpha^2y_2\\
y_1''+y_2''&= -\alpha^2y_2\end{array}\right.$
となり、
  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
y_1'' &= \alpha^2(-y_1 + y_2)\\
y_2'' &= \alpha^2(y_1-2y_2)
\end{array}\right.$ (10)
となる。これが $y_j$ の連立微分方程式である。これを行列化すると
  $\displaystyle
\mbox{\boldmath$y$}''=\alpha^2 A\mbox{\boldmath$y$},
\hspace{1z...
...right],
\hspace{1zw}A = \left[\begin{array}{rr}-1& 1\\ 1& -2\end{array}\right]$ (11)
となる。 $A$ の固有値は、
$\displaystyle \phi_A(\lambda)
= \left\vert\begin{array}{cc}\lambda + 1 & -1\\ -1 & \lambda + 2\end{array}\right\vert
= \lambda^2 + 3\lambda + 1
$
より
$\displaystyle \lambda
= \frac{-3+\sqrt{5}}{2},\ \frac{-3-\sqrt{5}}{2}
= -\omega_1,-\omega_2
\hspace{1zw}(\omega_j>0)
$
となる。 左固有ベクトルは、 $\mbox{\boldmath$q$}_j=[1\ \lambda_j+1]=[1\ 1-\omega_j]$ となり、 これを (11) の左からかけることにより、
$\displaystyle \mbox{\boldmath$q$}_j\mbox{\boldmath$y$}''
=(\mbox{\boldmath$q$}...
...$})
\hspace{1zw}(\mbox{\boldmath$q$}_j\mbox{\boldmath$y$}=y_1+(1-\omega_j)y_2)
$
となって方程式がスカラー化され (8) の形になるので、 その解は (9) より
$\displaystyle \mbox{\boldmath$q$}_j\mbox{\boldmath$y$} = d_j\sin(\alpha\sqrt{\omega_j}\,t+\beta_j)
$
となって、
$\displaystyle \mbox{\boldmath$y$}
=\left[\begin{array}{cc}1& 1-\omega_1\\ 1& 1-...
...1}\,t+\beta_1)\\
d_2\sin(\alpha\sqrt{\omega_2}\,t+\beta_2)\end{array}\right]
$
と求まることになる。

これも行列を固有ベクトルによってスカラー化することで 解ける形になっている。 また振動の性質もそのスカラー方向毎に現れることがわかる。

なお、この場合の連成振動は、振動数が

$\displaystyle \frac{\alpha\sqrt{\omega_1}}{2\pi}
= \frac{\alpha(\sqrt{5}-1)}{4...
...pace{1zw}\frac{\alpha\sqrt{\omega_2}}{2\pi}
= \frac{\alpha(\sqrt{5}+1)}{4\pi}
$
の、有理数比ではない 2 つの振動の合成となり、 よってそれは周期的ではないかなり複雑な振動となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-02-29