3 1 次変換の不変方向

本節から、固有値・固有ベクトルに関連する具体例をいくつか紹介する。 まず、本節では 1 次変換の不変方向について説明する。

1 次変換とは、主に 2 次元、または 3 次元の点から点への 1 次式 による変換で、

  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
x' &= a_1 x + b_1 y\\
y' &= a_2 x + ...
...y' &= a_2 x + b_2 y + c_2 z\\
z' &= a_3 x + b_3 y + c_3 z
\end{array}\right.$ (1)
の形に表されるものを指す。これは、それらの点の位置ベクトルと行列
$\displaystyle \mbox{\boldmath$x$}=\left[\begin{array}{r}x\\ y\end{array}\right]...
...\hspace{1zw}A = \left[\begin{array}{rr}a_1 & b_1\\ a_2 & b_2\end{array}\right]
$
により $\mbox{\boldmath$x$}'=A\mbox{\boldmath$x$}$ と表される (3 次元も同様)。 1 次変換は線形写像なので、 基本ベクトルの像で決定する。すなわち、基本ベクトル
$\displaystyle \mbox{\boldmath$e$}_1=\left[\begin{array}{r}1\\ 0\end{array}\righ...
...hspace{1zw}\mbox{\boldmath$e$}_2=\left[\begin{array}{r}0\\ 1\end{array}\right]
$
に対し、
$\displaystyle \mbox{\boldmath$x$} = \left[\begin{array}{r}x\\ y\end{array}\right] = x\mbox{\boldmath$e$}_1+y\mbox{\boldmath$e$}_2
$
より、
  $\displaystyle
\mbox{\boldmath$x$}'
= A\mbox{\boldmath$x$}
= xA\mbox{\boldm...
...ray}{r}b_1\\ b_2\end{array}\right]
= x\mbox{\boldmath$a$}+y\mbox{\boldmath$b$}$ (2)
と表されるので、 $\mbox{\boldmath$e$}_1$, $\mbox{\boldmath$e$}_2$ に基づく格子が、 $A$ により $\mbox{\boldmath$a$}$, $\mbox{\boldmath$b$}$ に基づく格子の座標平面に変換される と見ることができる (図 1)。
図 1: 基本ベクトルの変換先による格子での 1 次変換の表示
\begin{figure}\begin{center}
%\par
\setlength{\unitlength}{0.15mm}
\begin{pi...
...}
\put(691,-179){$\mbox{\boldmath$p$}'$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

この 1 次変換の様子を知る、もう一つの方法が、 固有値、固有ベクトルによる不変方向の確認である。 1 次変換の固有値がともに実数で、固有値、固有ベクトルを

$\displaystyle A\mbox{\boldmath$p$}_1=\lambda_1\mbox{\boldmath$p$}_1,
\hspace{1zw}A\mbox{\boldmath$p$}_2=\lambda_2\mbox{\boldmath$p$}_2
$
とすると、 $\mbox{\boldmath$p$}_1$ 方向、 $\mbox{\boldmath$p$}_2$ 方向のベクトルは、 この 1 次変換で方向は不変で、拡大 (固有値が負なら反転も) のみとなる。 例えば、
$\displaystyle A=\left[\begin{array}{rr}3&-2\\ 2&-2\end{array}\right]
$
なら、
$\displaystyle \phi_A(\lambda)
= \vert\lambda E-A\vert
= \left\vert\begin{array}...
...\end{array}\right\vert
= \lambda^2 - \lambda - 2
= (\lambda - 2)(\lambda + 1)
$
なので、固有値は $\lambda_1=-1$, $\lambda_2=2$, 固有ベクトルは、
$\displaystyle \mbox{\boldmath$p$}_1 = \left[\begin{array}{r}1\\ 2\end{array}\ri...
...pace{1zw}\mbox{\boldmath$p$}_2 = \left[\begin{array}{r}2\\ 1\end{array}\right]
$
となる。 よってこの $\mbox{\boldmath$p$}_1$ の方向には反転され、 $\mbox{\boldmath$p$}_2$ の方向には 2 倍の拡大、 ということになる (図 2)。
図 2: 固有ベクトル方向の格子
\begin{figure}\begin{center}
%\par
\setlength{\unitlength}{0.18mm}
\begin{pi...
...){99}}
\put(438,-198){\line(52,111){52}}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

最初の基本ベクトルの変換よりも、 むしろ不変方向に見る場合が都合がいい場合もあるだろう。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-02-29