3 公式の説明

この節では、公式 (3) の「説明」を行う。 教科書 [1] (第 IV 部 第 3 章 2) では、 ラプラス逆変換を表すブロムウィッチ積分を用いて それを説明しているのであるが、 ここではそれとは少し違う説明を行う。 なお、一部厳密性を欠く説明が含まれるため、 「証明」ではなく、あくまで「説明」であるとしておくが、 理屈はこれでも十分理解できると思う。

方針としては、 基本的に (3) の右辺をラプラス変換し、 それが $F(s)$ に等しくなることを示すのであるが、 その前に、留数定理を用いて (3) の右辺を 複素積分の形に書き直すことから始める。

$s=s_1,\ldots,s_N$ は孤立している点なので、 それぞれを中心として、 いずれも交わらない円 $C_j$$s$ 平面に書くことができる。 その向きを左に取れば留数定理より、

  $\displaystyle
\mathop{\rm Res}\nolimits [e^{st}F(s),s_j] = \frac{1}{2\pi i}\int_{C_j}e^{st}F(s)ds
\hspace{1zw}(1\leq j\leq N)$ (4)
となるから (3) の右辺は、
  $\displaystyle
g(t)=\sum_{j=1}^N\frac{1}{2\pi i}\int_{C_j}e^{st}F(s)ds$ (5)
と書けることになる。 さらに、$e^{st}F(s)$ はこの $s_j$ を除いては正則なので、 この $C_j$ すべてを内部に含む大きな円 $C'$ を取れば (5) は、
  $\displaystyle
g(t)=\frac{1}{2\pi i}\int_{C'}e^{st}F(s)ds$ (6)
となる。この $C'$ $C'\subset \{\Re s<\sigma\}$ であるとして、 この (6) のラプラス変換を考えると、
$\displaystyle \mathcal{L}[g(t)](s_0)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \mathcal{L}\left[\frac{1}{2\pi i}\int_{C'}e^{st}F(s)ds\right](s_0)
=
\frac{1}{2\pi i}\int_{C'}\mathcal{L}[e^{st}](s_0)F(s) ds$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2\pi i}\int_{C'}\frac{F(s)}{s_0-s}ds$(7)
となる。 $\mathcal{L}[e^{st}](s_0)=1/(s_0-s)$$\Re s_0>\Re s$ で成り立つので、 $\Re s_0>\sigma$ であれば (7) が言えることになる。

今、$R>0$ を十分大きく取ることで、原点中心、半径 $R$ の円 $C_R=\{\vert s\vert=R\}$$C'$$s_0$ をいずれも内部に含むようにする。 この場合、$F(s)/(s_0-s)$ の極はこの $C_R$ 内にすべて含まれることになるので、 (7) より

$\displaystyle {\frac{1}{2\pi i}\int_{C_R}\frac{F(s)}{s_0-s}ds
=
\frac{1}{2\pi i}\int_{C_0}\frac{F(s)}{s_0-s}ds
+\frac{1}{2\pi i}\int_{C'}\frac{F(s)}{s_0-s}ds}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2\pi i}\int_{C_0}\frac{F(s)}{s_0-s}ds +\mathcal{L}[g(t)](s_0)$(8)
となる。 ここで、$C_0$$s_0$ を中心とし $C_R\cap\{\Re s>\sigma\}$ に含まれる円とする。

この $C_0$ の内部では、 $F(s)/(s_0-s)$$s_0$ に 1 位の極を持つだけなので、 コーシーの積分定理により

  $\displaystyle
\frac{1}{2\pi i}\int_{C_0}\frac{F(s)}{s_0-s}ds
=-F(s_0)$ (9)
となる。よって、(8), (9) より、
  $\displaystyle
\frac{1}{2\pi i}\int_{C_R}\frac{F(s)}{s_0-s}ds
= -F(s_0)+\mathcal{L}[g(t)](s_0)$ (10)
がわかる。 この右辺の値は $R$ には関係ない値であるが、 この左辺の値は実は 0 であることを以下に示す。

$C_R$ 上の積分を $s=Re^{i\theta}$ として $\theta$ に関する積分に直すと、

$\displaystyle \int_{C_R}\frac{F(s)}{s_0-s}ds
=\int_0^{2\pi}\frac{F(Re^{i\theta})}{s_0-Re^{i\theta}}Rie^{i\theta}d\theta
$
となるが、
$\displaystyle \left\vert\int_0^{2\pi}\frac{F(Re^{i\theta})}{s_0-Re^{i\theta}}
...
...0^{2\pi}\frac{\vert F(Re^{i\theta})\vert}{\vert s_0-Re^{i\theta}\vert} d\theta
$
であり、
$\displaystyle \vert s_0-Re^{i\theta}\vert\geq \vert Re^{i\theta}\vert-\vert s_0\vert=R-\vert s_0\vert
$
なので、結局
  $\displaystyle
\left\vert\int_{C_R}\frac{F(s)}{s_0-s}ds\right\vert
\leq \frac{R}{R-\vert s_0\vert}\int_0^{2\pi}\vert F(Re^{i\theta})\vert d\theta$ (11)
となるが、 $R\rightarrow\infty$ とすると右辺の最初の分数は 1 に収束し、 後ろの積分は、減衰条件により各 $\theta$ に対して
$\displaystyle \lim_{R\rightarrow\infty}\vert F(Re^{i\theta})\vert=0
$
であるから (厳密には有界性条件 (1) も考え合わせると) 0 に収束する。 よって、(11) の右辺は 0 に収束することになるので、 (10) で考えれば、
$\displaystyle 0= -F(s_0)+\mathcal{L}[g(t)](s_0)
$
すなわち、 $\mathcal{L}[g(t)](s_0)=F(s_0)$ となることが示されたことになる。 よって、$g$ のラプラス変換が $F$ であるということになり、 $\mathcal{L}^{-1}[F]=g(t)$ が示されたことになる。

なお厳密に言えば、 $g(t)$ のラプラス変換の存在、 (7) のラプラス変換と積分の順序交換 (2 つ目の等号)、 (11) の右辺の積分が 0 に収束すること、 $\Re s_0>\sigma$ 以外での $s_0$ でも $\mathcal{L}[g(t)](s_0)=F(s_0)$ となること、 などの証明が必要なのであるが、 ほぼ上のような説明で理屈は納得できるのではないかと思う。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-07-20